第16話 カタリナのもたらす情報
「ここから北へ馬車で一週間ほど向かうと、職人の街があります。そこの住人は武器・防具・魔道具・道具などの職人が多く、職人たちによるギルドが作られていて、他国もおいそれと介入できないそうです」
その街はガレオスたちがここを出たら最初に向かおうとした街とは正反対の方向にある。
「そこに元騎士団員の方がいる、と?」
フランの質問にカタリナは頷いた。
「はい、というより実際に会ったというのが正しいです。私ではなく夫がですが」
カタリナの言葉に二人は驚いた。聞けるとしても噂程度のものだと思っていたが、彼女の持ってきた情報はより信頼のおけるものだった。
「あの街であったのが誰だったのかは教えてもらえませんでしたが、話を聞いた限りでは夫と同じ副長。もしくは隊長格の方だと思われます」
ガレオスは手を顎に当てて考え込んでいた。
「うーむ、十二人のうちの誰かってことか。一体誰がいるんだろうな?」
「すみません、そこまでは教えてもらえなかったので……」
ガレオスはただ疑問を呟いただけだったが、カタリナは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、すまんな。先に誰かわからないと言ったのに、ついつい口から出ちまった」
今度は反対にガレオスが頭を下げる。
「いえ、いいんです。頭を上げて下さい……それにしても、やはりガレオス隊長はお優しい方ですね」
カタリナは笑顔でそう言った。
「そうか? 普通だと思うが」
しかし、本人はぴんと来ていない様子だ。
「まあ、自覚していないほうがいいでしょうね。だからこそ部下たちは隊長のことを慕っているので」
フランはガレオスがこういう反応をするのが、また彼の魅力だと思っていた。
「あー、そうかもしれませんね。ふふっ、ガレオス隊長のことはフラン副長が一番知ってらっしゃるようですね」
「付き合いは長いので、他の人より多少は」
フランは少し頬を赤くして照れながら返事をする。
「うむ、そのおかげで色々助かってる」
ガレオスは何度も頷いている。
「ごほん、それよりももう少し詳しい情報を聞かせてもらえますか?」
フランはこの話題は照れもあって引き伸ばしたくないので、咳払いで一度話を切ってから本題に無理やり戻した。
「あっ、そうでしたね。うーん、私が聞いた話ではどうやらギルドの上のほうの人だということくらいです。あまりお力になれなくてもうしわけないのですが……主人も固く口を噤んでいまして」
カタリナは再び肩を落とした。
「いや、十分だ。俺たちの進む道がこれで決まったな、海の幸はひとまずお預けだ」
「海の……幸?」
なんのことかわからないためカタリナは首を傾げてオウム返しに尋ねる。
「気にしないで下さい。先に候補として挙がっていたのが南の港町だっただけのことなので……そちらは情報としていささか不確かなものだったで、今回の情報は非常に助かりました」
フランがガレオスの言葉の補足をした。
「なるほど……それでは、お二人が北の職人の街に向かっている間に私の方でも港町の情報を集めてみますね。私がいた第六隊が得意なのは哨戒や情報収集ですから、お任せ下さい」
カタリナはどんと胸を叩いてその役目を請け負った。
「そいつは頼もしいな。しかし、無理はしないでくれ。俺は何かあってもどうとでもなるが、カタリナには怪我をした夫と、娘がいるんだからな」
ガレオスの言葉に夫と愛娘の顔が浮かんだカタリナは言葉に詰まった。
「カタリナさん、隊長はこういう方なのです。言葉の通りに受け取ってください」
ともすれば、彼の言葉の裏を探ろうとする者も今までにはいたが、裏などないことを知った者はそのままガレオスの魅力や器にひかれていっていた。
「……わかりました、それではできる範囲内で最大限の結果を出せるよう努力しますね」
カタリナのいた部隊、第六隊の隊長も人望厚く、隊士から慕われていたが、それとはまた別の魅力を持つガレオスはやはり隊長になるべくしてなったのだなと彼女は感じていた。
「さて、話は済んだな。とりあえず……そろそろ飯にしないか? 腹が減って仕方ない」
その言葉と同時にガレオスの腹の虫がないた。周囲に響くそれはまるで怪物の声のようでもあった。
「い、今のはお腹の音ですか?」
「下の食堂で食事がとれるそうですからいきましょう」
聞きなれていないカタリナは驚いているが、何度も聞いているフランは涼しい顔をしている。
「カタリナさんはどうされますか?」
「えっ、あ、はい。そうですね、私は家に帰ろうと思います」
質問された彼女はガレオスの腹の音に驚いていたため、慌てて反応した。
「そうだな……カタリナもアダムも気をつけろよ。武源騎士団の人間は残党狩りにあっているらしい。お前たち二人は騎士団内でも上位に位置する実力者だったから狙われる可能性も高いだろ」
ガレオスに言われ、思うところがあったのかカタリナは左手にそっと手を当てる。
彼女もガレオス・フランと同様に左手に腕輪をしている。彼女はそれが他者にわからないようにその上に包帯を巻いて、更にはいつも長袖を着ていた。
「大丈夫です。私もあの人も強いですから」
それは自信があるが故の言葉ではなく、自分自身に言い聞かせようとしている様子だった。
「ふむ、だが万が一ミナが人質にでもとられたらそうもいっていられんだろうな。だから、正体がばれそうな時は無理をしなくていいぞ。なんだったら、俺の情報を対価になんとか逃げ出せばいい」
「そんなこと!」
カタリナの反応にガレオスはにやりと笑う。
「そんなことにならないのが一番だ。家族を守り、俺のことも守ってくれるのならその状況にならないように気を付けてくれよ」
「……そう、ですよね」
「そういうことですね。ご自分やご家族のことを第一に、我々のことは第二、第三以降で構いませんので」
頼もしい二人の様子を見てやはりかなわないなと改めてカタリナは思わされた。
「……隊長、格好いいことを言ったのはいいですが。少しはそれ抑えてもらえませんか?」
話している最中もガレオスの腹はずっと鳴り続けていた。
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