わんだぁらんど

如月李緒

第一部 welcAme to wAnderland

プロローグ

人の言葉をしゃべる白いうさぎを追いかけて

白いうさぎに続いて穴に落ち、

大きくなったり小さくなったり、

鳥や獣たちと競争したり、話したり、

終わらないお茶会に参加したと思ったら、

大会に出たり、裁判の証人になったり。


穴におちた少女"アリス"。


白ウサギを追いかけて不思議の国に迷い込み、不思議な出会いを重ねながらその世界を冒険する、そんな物語の主人公。


その物語とは………





───『alice in wonderland』いわゆる『不思議の国のアリス』。

誰もが名前くらいは聞いたことのある、ルイス・キャロルの童話………。








 いつからだろう。



 アリスという名に惹かれはじめたのは。


 ルイス・キャロルのお話じゃなくてもよかった。不思議の国のアリスをモチーフとした小説や漫画を見つけると、心が踊った。

 アリスが好きな少女の話、アリスになりきる男の子の話、残念なサラリーマンが不思議の国に迷い込む話……。色々あって、どれも好きだった。

 心が踊ったり、面白くて笑いがこぼれたり。

 悲しくなったり、癒されたり。



 だから、無視なんてできなかった。

 たとえそれが「最新のウイルス」であるとか、「神隠しに遭う」なんて噂がある代物でも。



 真っ暗なディスプレイに白く浮かぶ文字。

《welcome to wonderland.》

 不思議の国へようこそ。


 その言葉に心臓をグッと鷲掴みにされてしまったかのように………私はもう、その文字に心を奪われている。



白い文字の下にあるのは、青い文字。

【return】【enter】



 returnを押せば、このウイルスは解除される。しかも、それまでにあったその機器の経年劣化等による不具合がなかったことになる。それは、新品同様の状態スペック。しかし、製造されなくなって久しい型でもその現象が起こっていることから新品と交換された可能性は低いという。

 それは、たくさんのがブログ等で語っている。

 さらに、ニュースで取り上げられたこともあるくらいだから、周知の事実と言っても過言ではないだろう。


 しかし、間違ってenterを押せば………もちろんその人は神隠しに遭う。

 神隠しの証拠は残された機器だ。かならず、"アリスは深い穴を堕ちた。長い長い時間おちて、そして不思議の国に迷い込むのだ"というメッセージが残っている。

 PCやスマホであれば、画面がそのメッセージを表示した状態で固まっており、どんな操作も受け付けない。そして、電気の供給を必要とせず、メッセージを永遠と表示し続ける。


 そんな、ウイルスの対処法を含めた詳細がわかっているのに神隠し事件はあとをたたない。



 みんな、思ってしまうのだろう。

 不思議の国のアリスのように、ここではないどこかへ落ちるのもいいかもしれないと。



 も、そんな人たちと変わらない。

 welcome to wonderland.

 その文字に心を奪われた私は、迷うことなくenterを選ぶのだから。



 画面が白くなり文字が赤く浮かび上がる。


《welcAme to wAnderland.》

 不思議の国え よおこそ。

   【∃N⊥ЕЯ】


 スペルがおかしくなった言葉に、一瞬読めない暗号のようになってしまったenter。


 そして、また徐々に画面が黒くなる。

 でも、暗くなるのはディスプレイだけではなかった。

 全てが暗くなってゆく。

 外からの月明かりも、部屋の電気の明かりも。白い画面が暗くなるのと同じように、目に映る世界の全てが暗くなっていった。

 何も見えなくなっていく。

 やがて、赤く浮かぶ文字以外の全てが見えなくなった。そして、赤い文字もはじけるように消えた。

 真っ暗で何もない、ただの闇。

 何をすればいいのだろう。

 どうすればよいのだろう。

 なにもわからない。

 とりあえず歩いてみようか?

 体に力をいれると、急に落ちるような感覚におちいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る