49x 第六部 途絶えたつながり
装置を壊しても、現象は止まらないままだった。
まさか、裏切ったのか。
絶望的な気持ちのまま、青白い光が視界を満たしていくのを見ているしかない。
「そんな……」
時間がもうない。
「う、ぐ……ア……ガ……」
痛い。痛い。体が痛い。火であぶられるようだ。切り刻まれるようだ。電気をながさているかのようだ。
痛い。痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。
「アスウェルさんっ、しっかりしてください! アスウェルさんっ!」
俺はもう駄目だ。
レミィ、俺を……。
「あぁ……っ。そ、そんなアスウェルさんが、……そんなっ。そんなっ」
蠢く肉塊を前に呆然とするレミィ。
その最後に立つ者がいた。
「あはは、レミィ。駄目じゃないか。そんな奴になびいちゃ」
「……ぁ。ライト……さ、ん……?」
剣を振り上げる少年の姿。
レミィのは背後に立ったのは紛れもなくライトだった。
「いざというときの為に、装置の中に蘇生薬を隠しておいて助かったよ」
近づいてくるライトから下がるレミィは、しかし、背後に蠢く肉塊に邪魔される。
「――っ!」
その場から退こうとするレミィだが。
腕が、のびて、レミィの頭をなでた。
「あ、アスウェルさん。もしかして今なら、まだ……」
助けられるんじゃ。
そう、少女の口が声なき言葉を漏らす前に肉塊は手を、動かし少女の頬にそえ……。
「っっ」
小さな頭部を掴んで、蠢く肉体へと引き寄せた。
強く。強く。
自らの内部に押し込もうとするように。
「ぅ……ぁ……?」
「あ、アスウェル……さん……?」
レミィの体は、蠢く肉塊の中へ飲み込まれていく。
「ぇ……、やっ」
肌色の塊から生えた手が足が、理解が追いつきもがき脱出しようとする少女を押さえつける。
「ゃあ……っ、ぃゃ……っ。や、やだ……っ、助けて……っ」
レミィの胴が、胸が足が、ズブズブと肌色の肉の中へ埋まっていく。
「いやあっ、アスウェルさんっ、助けて…っ、いやっ」
檸檬色の髪が、耳が頬が埋まり、そして口が、目が、鼻が肉塊の中に沈んで行った。
近づいていくライトは、いまだ埋まり切っていない、伸ばされたレミィの腕を優しくつかんだ。
「レミィ、さよならだ。アスウェルも。……次はきっと、幸せになれるからね」
ライトは一つと成っていく二人に優しく微笑みかけ、掴んだ少女の手を肉塊の中へと埋め込んだ。
幸せにはなれなかったが、一つと成った二人な大切な人どうし永久に分かたれる事は無いだろう。
「あははっ」
ありがとう。
君には感謝しるよ、一応はね。
でも、よくやってくれたよね。
今まで頑張って来た仲間たちを切り捨てるなんてさ。
裏切りを提案して置いてなんだけど、ちょっと信じられないよ。
約束?
ああ、そんな事もしたよね。
その為に裏切ったんだよね、君……。
…………。
あのさあ。
僕が言えた義理じゃないけど、君みたいな人間好きじゃないんだよね。
つまらないというか。懐柔しても面白くないというか。
僕は確かにこの世界の住人でもないし、主人公でプレイヤーだから、確かにレミィやアスウェル達から見たらおかしいんだろうけどさ。
一応最低限のルールは守ってきているつもりなんだよ?
君からは分からないだろうけどさ、僕はこれでもいろんな世界を渡り歩いて、シナリオをクリアしたりヒロインを助けてたわけ。
そんな生活をしてるから、結構チート的な能力とかもいろいろ持ってたりするんだよね。
だけど、そんなの全部出したら面白くないだろう。
物語を、ゲームをプレイする際には相手側にも勝算がなくちゃ、正当なゲームにはならない。
なにより楽しくない。
だから、僕は、まあ……少しだけ規格外だったかもしれないけれど、彼らが絶対に勝てないような敵にはならなかったんだ。
無意識にしてもそもそも僕を喚んだのはあの二人なわけなんだし、あの二人が絶対に越えられないような壁にはなれないんだよ。
それなのに、君と来たら。
反則じゃないか。
君みたいな観測能力を持っている人間が、登場人物にご情報を与えまくるなんて。
初めからこの周回はゲームが成立してなかったじゃないか。
自分の利益の為にそこまでやるなんて、ちょっと引くなあ。
そんな人間との約束なんて、守る気ないよ僕は。
約束が違う? どうとでも言ってなよ。
じゃあね、ばいばい。
もう、観測能力も切るから。
君はこの物語に関わらないでくれるかな。
通りすがりのモブですらない君ははっきり言ってアスウェル以上の異物なんだよ。
うん、迂遠な言い方を取り除け邪魔、かな?
もういいかい? 切るよ。
じゃあね。
もし、方法を見つけてももうこちらには干渉しないでおくれよ。
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