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「蘭丸、すぐに出立する。手勢は僅かでよい。急ぎ準備せよ」


「上様、出立は明日のはず。直ぐにと仰せなら、小姓衆しか集まらぬやも」


「合戦ではないのだ。手勢など少なくて構わぬ」


 出立を1日早めた理由は、紅……そなたのことを想えばばこそ。


 紅をこれ以上、危険な目に合わせとうはない。紅が目覚める前に安土城を出なければ、紅のことだ、必ずやわしに同行するだろう。


「夜が明ける前に出立する。よいな」


「はい。上様、昨夜から紅殿の姿が見えませぬが。紅殿の白馬がうまやにおりませぬ。何処かに行かれたのやも。どう致しますか?」


「紅の馬がおらぬとな?そんなはずはない……」


「深夜、紅殿が馬に乗る姿を見た者がおりますゆえ、確かでございます」


 紅の白馬が忽然と消えた?

 紅が深夜馬に……?


 一体どういうことだ?


 昨夜、紅はずっとわしの腕の中にいた。

 紅が深夜床を抜け出し、馬を走らせることなど出来ないはず。


 誰かが、紅の馬を盗んだというのか……。


 一体誰が……。


 謎は深まるが、もはや詮索している時間はなかった。


「紅はこのたびの上洛には連れて行かぬゆえ、捜さずともよい」


「はい。畏まりました。すぐに手勢を集め、出立の準備を整えます」


 夜が明けぬうちに、蘭丸は100人ばかりの手勢を集め、わしは安土城を出立した。


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