SHOCK 14

信長side

145

 帰蝶に長年仕える侍女に、『上様、今宵於濃の方様が寝所にお越し下さいとのことでございます』と伝えられ、上洛前に今一度逢って、真実を問いただすつもりだった。


 帰蝶は、斎藤道三の娘である濃姫の身代わり、明智光秀のことをそんなに好いておるのなら、離縁してやっても構わない。


 そうなれば、わしは紅を正室に迎え生涯添い遂げることも出来る。


 だが、帰蝶の部屋に入ると、そこに居たのは美しい着物に身を包んだ紅だった。


 いつも男の形をし、むさ苦しい武将に紛れている紅が、このように美しく変貌を遂げるとは……。


 紅を男として扱ってきた自分が、どれほど無慈悲な仕打ちをしてきたのか、まざまざと見せつけられた気がして愕然とした。


 帰蝶は全てを見破り、このわしに『現実から目を逸らさず、真実を見よ』と、申したかったのだろうか……。


 帰蝶の方が……

 わしより上手であったようだな。


 灯籠の薄明かりに、紅の白き肌がぼんやりと浮かび上がる。


 赤い紅をさした唇。

 濡れた唇を、優しく塞ぐ。


 ――なぜ……

 それほどまでに泣くのだ。


 ――なぜ……

 それほどまでに悲しい目をしている。


 紅の吐息が……

 いつもより切なく、狂おしい。


「……もっと……強く」


 紅が望むなら、壊れるほどに強く抱き締めてやる。その代わり、女に戻ると約束してくれ。


「上様、中国遠征の出兵を最後とし、俺は女に戻ります。最後のお願いです。上洛する際は、おともさせて下さい」


 強情な女だな。

 でもそんな紅が、愛しい。


 わしの胸に顔を埋め、穏やかに眠る紅を見つめ、眠れぬ夜を明かした。


 外が明るくなり、ぐっすり眠る紅の額に口づけ、布団から出る。


「すぐに戻る。安土城で大人しく待っていろ」


 紅に別れを告げ、部屋を出て襖を閉めた。


 その足で、蘭丸の部屋に向かった。



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