オカルティックカードゲーム
浅沼紅
第1話
日常とは、常に上書きされていくもの。それは自覚のあるものもあれば、無自覚なものもあり、さらには自分とは無関係な事柄によって上書きされることもある。一度の上書きで人生が一変することもあるし、大して変わらないこともある。ただ、同じ時間軸に同じ日常は一秒以上存在することはなく、過ぎた時間は今現在と比べると、変わっていようがなかろうが、非日常なものになっている。
そう、過去とは非日常である。そして未来も。
そう思えてしまうのは、俺の過去と現在があからさまに異なっているから。詳しく言えば、数年前母さんが病で亡くなったことを俺の日常に上書きした瞬間、人生の方向性は変わったのだ。母さんは入院していれば治るものだと幼い俺は認識していたし、父さんからそう説明された。でも母さんは、容態を急変し、入院先の病院で亡くなった。
母さんが亡くなる前は、極々平凡な、特別裕福でもなく、特別貧乏でもなく、幸せな家庭だったと思う。
父さんは、母さんが亡くなったあと、失踪した。理由は知らない。二人でほそぼそと生活できる程度の仕送りが毎月父さんの名義で送られてくるので、失踪したという言い方は間違っているのかもしれないが、父さんとは連絡がつかないし、あの日以来父さんの顔を見ていないので、俺の主観からすれば失踪したでいいと思う。
結局、母さんの死を境に、俺の生活は貧しくなった。
母さんの死が俺の人生最大の日常の上書きだった。あの頃の家族みんなが揃っている幸福の日常はもう戻ってこない。だってそれは、非日常のことだから。母さんが生きていれば俺はどのような人生を歩んでいたのか、全く想像することができなかった。
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