第12話 血の龍


 合図とともに、俺とストラツは手のひらが上になるような形で、左手首を前に突き出した。


 マリスは立てた二本の指先に鋭い光を集めると、俺の手首を指先で斬りつけた。


 俺の手首から大量の血が噴き出す。


 唇が震えだして、そのまま前のめりに倒れてしまいそうになるのを、必死にこらえる。


 マリスはストラツの手首も斬りつけると、両手を勢いよく上に振り上げた。


 俺とストラツの手首から、血しぶきが天井の高さにまで噴きあがった。


 恐ろしいまでの勢いで血の気が引いていき、急激な寒気に襲われる。


 毒が全身を満遍なく回り、黒い毒と混ざり合った俺の血液と、白い毒が混ざり合ったストラツの血液とが、まるで龍のように室内を飛び回る。マリスが俺とストラツの手首から噴き出した血を操っているのだ。


「は!」


 マリスの掛け声とともに、一匹の血龍が俺の手首の傷口から体内へ一気に入っていく。


 血液には型というものがあるらしい。その型が同一の人間同士なら、互いに輸血することができるという。


 俺とストラツの血の型は同じだったのだ。


 マリスが俺の体内に入れたのは、ストラツの手首から生まれた血の龍だ。その血には白の毒が含まれている。そして俺の手首から放たれた血龍は、ストラツの体内へと移された。


 これで白と黒の毒は中和され、無害になるはずだ。


「クランベル! 止血急いで!」


 マリスの叫び声が聞こえ、クランベルが俺の手首に包帯を巻いていく。


 依然として激しい痛みは続いていた。さらに全身が麻痺して、呼吸がままならない。視界がどんどん暗くなっていき、意識が薄れていく。


「まだよ! 意識を保って!」


 マリスの叫び声が聞こえたと同時に、優しい光に包まれた。


 少しずつ痛みが引いていき、呼吸もだいぶ楽になってきた。


 床に這いつくばったまま見上げると、光はマリスの手から放たれていることがわかった。痛みを緩和する魔術らしい。マリスの手が光るのをこれまでも何度か見てきたが、普段とは比べ物にならないくらいの輝きだった。


 マリスがいつになく険しい表情をしている。


 額から汗が噴き出していて、その汗をクランベルが懸命に布で拭いている。俺たちの毒の痛みを緩和するだけでも、相当な負担らしい。それほどまでに体内の毒は強力だったようだ。


 痛みは既にまったく感じていなかった。


 むしろ暖かい昼下がりの中でうたたねしてしまうような、とても心地よい気分になっていた。

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