第11話 五分間
激しい喉の痛みとともに、何かが体内から這い上がってくる感覚があった。その何かが喉を通過し、口から一気に体外へ吐き出された。
大量の血。
口から、鼻から血が噴き出し、体が痙攣を起こす。呼吸ができなくなり、とてつもない寒気に襲われた。
痛い! 苦しい! 吐き気が止まらない!
たまらず床を転げまわる。
失いかけた意識の中で、目の前に立っているマリスを見上げた。素晴らしいくらいに涼しい顔をしていた。
さすがは国内屈指の医療術師、頼りになる。
冷静そのもののマリスの顔が、俺の心に火をつける。自分のすべきことさえやりとおせば、あとはマリスという名医に任せるだけでいい。
メイザーは言っていた。五分足らずで全身をめぐる、と。
俺たちのすべきことはただ一つ。
毒が全身を回る五分間を、ただただ耐えきるのみ!
もはや血なのか胃液なのかもわからない液体を口から垂れ流し、激しく痙攣する己の肉体をどうにか制御しようと、腕を強く握る。
どれほどの時間が経ったのか。マリスが空中に形成した光時計に目をやる。
光時計は五分で消える設定のはずなのに、まだ半分も消えてはいない。
心が折れそうになり、意識が遠のく。
成功率はほぼ零パーセント。
マリスの言葉どおり、やはり無謀だったのだ。もう無理だ、耐えきれない。俺の意識が一気に失せていくのを感じ、ようやく楽になれるのだと思った。
薄れゆく意識の中で、白目をむいているストラツの顔が見えた。
耐えることをやめて楽を選んだ男の末路。
おまえはいつからそんな腑抜けになったのだ。
「喝!」
俺の雄たけびに、ストラツの目から生気が戻った。
「絶対に生き残るんだ!」
「あ……あたり……まえだ……」
俺とストラツは、いうことのきかない腕を無理やり動かし、体を起して体制を立て直した。
時間はあとどのくらいだろう。
意識を取り戻して再び肉体の苦しみを受けながらも、そのようなことを考えているときだった。
マリスの叫び声が室内に響き渡る。
「五分経過!」
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