第4話 従魔召喚

 二人は、握手を終えこれからの事を話し合う。


「それでこれからどうするんだ?」


「うんっとね。まずは森から出て街道に行こうか。でも、その前に召喚スキルは盗んだんでしょ?」


「ああ、召喚スキルな。盗んできたぞ」


「じゃあ、一回何が召喚されるか見てみましょ」


「了解」


悠は、さっそく召喚スキルを発動させる。

もともとの消費MPは小さいが、熟練度が低い悠にとっては結構なMPが削られる。

召喚する地点を決めると、そこへ魔法陣が現れ光を帯び始める。


「お、これぞ召喚って感じがするな」


魔法陣に興奮する悠。


「この光って結構目立つんだよ。だから召喚する時と送還する時は周りに気を付けないと危ないから注意してね」


ミラはそう言うと草むらから飛び出して来たゴブリンを腰に差していた短刀で切り捨てる。


「りょ、了解」


悠はミラの冷静な対応に、興奮していたのが恥ずかしくなってしまった。

早く終わらせようと召喚に向き直る。

魔法陣からあふれた光が周りを包み込んでいた。


「たしかにこれは目立つな」


呟いた瞬間、光が倍に膨れ上がる。

あまりのまぶしさに召喚を見ていた悠は目をそらした、そらした時しまったと思う。

慌てて気配感知スキルを使い周囲の状況を確認する。

周りには2つの気配を感じる。一つはミラだと分かるがもう一つが分からなかった。

魔物かと思い、勢いよく目を向ける。


「えっ…………馬」


そこには、黒い毛並みで金色のたてがみをした馬が居た。

体長は3Mを超えていて、筋肉の付き方が半端じゃない。

体よりも一番目を引くのが頭から生えている一本の黒い角だ。そう黒いユニコーンがそこには居たのだ。


「モノケロス!? なんでこいつがこんなところに!?」


ミラが黒いユニコーンを見て慌てだす。


「ミラ、こいつは何なんだ! なんでそんなに慌ててる!」


「悠気を付けて! こいつはモノケロス、ユニコーンの上位種よ。

気性が荒くてとても攻撃的な性格、その気性の荒さと強さから討伐ランク特A級な危険な魔物よ」


****

『討伐ランク』

魔物の強さと脅威度を冒険者ギルドが定めてたものだ。

ランクはF~Sまであり、一番低いのがFランクで高いのがSランクだ。Fランクは、この森に居るゴブリンなどが該当する。

強さは徐々に強くなっていき、Aランクの魔物にいたっては街単位で被害が出るほどだ。特Aランクは国が滅ぶとされている。

ちなみに魔王はSランクに分類されており、その脅威は人類規模の被害である。

****


「なんでそんな危険な奴が召喚されたんだよ」


「ミラに聞かれてもわかんないよ。むしろどうやってモノケロスなんて召喚できたか聞きたいくらいだよ」


「どうすればいい? 送り返した方がいいのか?」


「たぶん無理よ。送還する前に殺されちゃうわ」


「マジでどうするんだよ。俺まだ死にたくないぞ」


「………………」


どうしようもないのだろうミラは黙ってしまった。

モノケロスは、二人が話しているにも関わらずその場を動かない。

むしろじっと悠の事を目で追っているようだ。

その事に悠は気付き、おそるおそるモノケロスに話しかける。


「モノケロス、お前は俺たちを殺すのか?」


モノケロスは首を横に振る。


「ひっ」


ミラが、モノケロスの動きで小さな悲鳴をあげる。


「俺の言ってる事が分かるのか?」


今度は、首を縦に振った。

強い魔物は、高い知性を有している場合が多い。モノケロスも人の言葉を理解できるだけの知性があるようだ。


「そうか。お前は俺の従魔として俺が召喚した。俺に従う気はあるか?」


首を縦に振るい、そのまま頭を地面につける。

それを見た悠は、警戒しながらもモノケロスへと近づく。


「悠、危ないわ戻って」


「大丈夫、大丈夫。お、毛がすっげぇなめらか」


そう言いながら悠はモノケロスの体を撫でる。

撫でられたモノケロスは気持ちよさそうに目を細めている。

悠の事を召喚した主として認めているようだ。


「ほんとに何もかもデタラメなんだから」


ミラは、その光景を眺めながらつぶやく。


「ん? なんか言ったか?」


「うんうん、なんでもないよ。それよりもミラも触っていい?」


「いいんじゃないか。むしろこいつに乗って移動するんだろ。今のうちに慣れておかないとつらいんじゃないか?」


悠の許可を貰い、ミラも触ろうと近づく。

ミラが近づくとじろっとモノケロスが睨む。


「ひっ!」


「安心しろこいつは俺の仲間だ」


悠の言葉を聞き納得したのだろう頭を再び地面へと落とす。


「ミラ、大丈夫か。漏らしてないか?」


「だ、大丈夫よ! ちょっとびっくりしただけなんだから!」


ミラは顔を真っ赤にしながら、モノケロスを撫でる。


「わぁ! すごい気持ち良い」


「だろ、これは撫で続けても飽きないだろうな」


「うん!」


それからしばらく二人は、モノケロスを撫で続けるのだった。


----


一通り満足すると悠がミラに声を掛ける。


「そろそろ行くか」


「そうだね、いつまでもこうしていたいけどすぐ暗くなっちゃうから移動しようか」


「で、最初はどうするんだ。まずは街道を目指すんだったか?」


「最初は街道を目指そうかと思ったけど、モノちゃんを連れて行くと目立ちそうだから森の中を移動して行こうと思うの」


「モノちゃん?」


「モノケロスだからモノちゃん。可愛いでしょ」


(可愛いかあんな見た目だぞ……。それにしても安直すぎないか? でもこれ言うとまた怒るんだろうな)


悠はバレないように小さく溜息を吐きながら、名前については諦める。


「まぁいい。それで森の中を歩くのか?」


「うんうん、違うの。モノちゃんなら森の中でも走って移動できるはずよ。

悠、背中に乗せてくれるように頼める?」


「森の中でも走れるのか、すごいな。モノケロス、俺たちを乗っけて走ってくれるか?」


首を縦に振り、了解の意を示し乗りやすいように、しゃがんでくれた。

道がわからないということで、ミラが前に乗りモノケロスに指示を出す。悠はミラの後ろに乗る事になった。


「それじゃあ、西に向けて全速前進!」


西を指差し、ミラがモノケロスに指示をだす。走り出しはゆっくりだったが、森の中にもかかわらず数秒で時速100キロを超える。


「これ落ちたら死ぬんじゃないか!」


声を張りながら、必死にモノケロスの背中にしがみ付く悠。


「あははは、たのしーー!」


対照的にミラは楽しそうに、盛り上がっている。

モノケロスは、時速100キロの速度で森の木を避けながら右へ左へと機敏に動きまわる。

まるで安全バーがないジェットコースターに乗っているようだ。


「あ! もう森を抜けるよ! さすがモノちゃん早いね」


「え? なんだって全然聞こえないぞ」


さすがにこの速度では、風の音が大きすぎて何も聞こえない。


「森を抜けるの!!」


「だから聞こえないって!」


「あーもういいや。モノちゃん森を抜けたらいったん止まって」


森の切れ目が近づいて来た時、ミラはモノケロスに停止の指示をだす。

風の音が大きい中でもモノケロスにはミラが何を言ったのか聞き取れたようだ。

小さく嘶くとスピードを落としていく。そのままスピードを落としていき森を抜けたあたりで完璧に停止した。

森を抜けた先は見渡す限りの平原が広がっていた。


「ふー楽しかった。モノちゃんありがとね」


「うっ、吐きそう……」


ミラはモノケロスを労いながら頭を撫でる。

さすがに悠は、あの速度の上に左右に揺れたせいで軽い乗り物酔いの状態になっていた。


「もう! 男でしょ。しっかりしてよね」


「そんな事言ったって、風で飛ばされそうになるし揺れは激しいし息は出来ないしで死にそうだったぞ。

ミラはなんでそんな元気なんだよ」


「えっぜんぜんそんな事なかったよ。むしろすっごいわくわくして楽しかったよ」


「さいですか……」


これが長年冒険者として暮らしてきた成果なのかと内心思いながらモノケロスから降り草原に寝転ぶ。

吐くまではいかないが、少し胸がムカムカしていたので休憩しようとしたのだ。


「ちょっと休憩するの早くない?」


森を抜けるのに10分もたってない。

歩いて森を抜けようとしたら最低でも1日は掛かるはずだ。

それだけモノケロスの速度は速かったと言うことだ。


「森を抜けたんだし少しくらいいいだろ。あとは平坦な草原なんだし」


「草原なんだから一カ所にいたらモノちゃんが他の人に見られちゃうよ」


あたりは人が隠れる場所がないほどの何もない草原だ。

特Aランクの魔物でもあるモノケロスが人に見られれば、どうなるかは分かりきっていることである。

そし見られれば国規模で討伐隊が組まれ、何万と言う人がモノケロス一匹相手に死闘を繰り広げるだろう。


「わかったよ。でもそうは言っても草原じゃ何も隠れるものがないんだし、見つかるなって方が無理じゃないか?」


「そんなことないよ。今のうちに進んだ方がいいんだよ。ちょうどお昼ご飯の時間だから草原に人は少ないと思うんだ」


「昼だからこそまわりが見渡せる草原で食うんじゃないのか?」


「この草原に居る魔物はガイウルフっていう奴でね。一体だけならFランクで弱いんだけど群れで襲ってくるの。群れでならEランクに分類されるちゃうし。

しかもガイウルフって足が速いから、下手に障害物が無い草原ではまず逃げられないよ」


「そういうことか。森とかで食った方がガイウルフに見つかりにくいから草原には人は居ないと」


「うん。そういうこと。でも絶対人が居ないわけじゃないから警戒しながら行った方が良いかもね」


「了解」


悠は休憩したかったがミラの言う事も一理あると理解して、起き上がりモノケロスの上へと移動する。

乗ったのを確認するとミラが声を掛ける。


「よし! モノちゃんまた頼むね。今度はこっちの方にお願い」


モノケロスの頭を一撫でし今度は西から少し外れ、南西の方を指差す。


「真っ直ぐ西に行った方が早いんじゃないのか?」


ミラのお願いは西にある里へ行く事なので、疑問に思ったことをミラに聞いてみる。


「このまま西に真っ直ぐ行ってもいいんだけど、まっすぐ行くと街があるからちょっと遠回りでも回避した方がいいでしょ」


「そういうことか」


「よーーし! 今度こそ全速前進!」


ミラの合図ととも走り始めるモノケロス。

森とは違い左右に揺れることは無いが、先ほどよりも速度が出る。

だいたい時速130キロ位だろう。木を避けるために速度を抑えていたようだ。


(マジかーーーー!)


内心絶叫しながら、必死にしがみ付く悠。


「あはははははは」


体が浮いているが楽しそうなミラ。

そこには先ほどの光景が繰り広げられていた。

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