楽園に告ぐ / 鏡面領域

柴見流一郎

第1話 プロローグ

 この事件の結末を言えば、「失敗した」の一言で終わる。

 僕こと、高杉或亥たかすぎあるいは、とある人の「楽園」を救うことが出来なかった。目の前で、崩壊していく様を見ていることしか出来なかった。


 魂というものは、「楽園」の中に逃げ込んでしまう。崩壊してしまった「楽園」の中では、もう助からない。

 後は、枯れた花が咲くだけなのだ。


 『黒繭事件』。

 そう呼ばれるようになった、社会現象。現代になって広がりだした奇病。

 病んだ社会が、蝕まれた世界が、傷ついた空が、人間の心にシミを作っていった。


 星が泣いている。

 その人は、最後にそんなことを言っていた。


 「楽園」とは、人の心の最後の砦だ。

 誰の心にもある、絶対に色あせない景色。

 だけど今は、その「楽園」はもろく、手のひらからもこぼれ落ちてしまう。


 僕が請け負った仕事も、『黒繭事件』の一つだった。

 しがない『何でも屋』なんていう、うさんくさい職種の僕が、そんな世界に触れる。決して珍しいことじゃなかった。


 それほどまでに、社会は黒点を生んでいたのだった。


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