サイキック・ジェネラル吉宗

さらまんだ川崎

第1話

 時は子の刻。吉宗は不意に眠りから浮上した。眼前には格子に区切られた天井。


 それぞれの矩形の中に絢爛と綾なす模様も、今は青い冥蒙のなかに沈む。


 頭上には障子、吉宗の伏す畳の間より一段下がった右手の板間には小姓が背を向けて座している。小姓は名を田沼意行たぬまおきゆきといった。


 吉宗の、紀州藩主時代からの近習で、よわいは三十の、小柄で痩身な男であった。意行は鷹揚な雰囲気の中に、どこか鋭気を具した手練れであった。

 江戸城の中奥に位置するこの御休息の間に、外部より侵入があることは皆無に近いことと言えたが、今から三十年ほど前に江戸城内で起きた老中堀田正俊暗殺事件以降、将軍の警備はより厳重なものとなっていた。


 ましてや、吉宗は宗家出身の将軍ではない。


 画策と幸運とが双奏していまの地位にあるとあって、城内に、面白くないと思う者が居ることは想像に難くないことなのであった。


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