洗脳の夜

 多分 確かにやり残した事はあって

 例えばそれは朝晩の挨拶の事であったり

 不注意で壊してしまった食器の事であったり

 そんなすぐに忘れてしまいそうなごく些細な事


 ふと見上げれば見上げた先には見事な月が出ていて

 なるほどなぁ これはお団子を供えたくなる気持ちも分かるなあ

 この圧倒的な存在感は全くお日様の比なんかじゃなく


 頭の中を空っぽにしたはずなのに

 心の隅っこにいつも何か引っかかっているから

 また今日もスッキリしないまま一日を終えている


 ああ 白く白く汚されていく

 溢れる月光に全てを浸食されて

 忘れてはいけない事までキレイに忘れてしまいそうで


 こんな見事な月夜の晩に

 ほら ネコが見上げてる

 ほら 犬が吼えている

 ほら 柳が揺れている


 ほら 潮騒が歌ってる

 ほら 船が汽笛を鳴らしてる

 ほら 踏み切り遮断機が叫んでる


 ほら フクロウが笑ってる

 ほら 虫たちが鳴いている


 僕は眠れないフリをしながら眠ってる

 夢を見ているフリをしながらいびきをかいている

 

 どこまでもどこまでも堕ちていこう

 もしそれが許されるのなら

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