次元を超えて

山本 シン

第1話

水の流れる音が聞こえる、体がプカプカと水に浮いている様だ、

目を開けると青い空がみえる、

「ここはどこだ?おれなんで水の中に?」

ゆっくり起き上がるが、服が濡れてとても重い

「重い・・・」

四つん這いになり、さらさらと波立つ水面をみて見ると黒い髪に黒い瞳、日によく焼けた黒っぽい肌、顔の輪郭は水面が揺れてよくわからない

顔を持ち上げ周りを見回して見ると、ここは崖に囲まれた川辺

そして、川の上流から叫びながら走ってくる人がいる、

太陽を背にしてよく見えないが、長い髪が左右に揺れるたびにキラキラ光る雫を散らしながらそのシルエットは女性、

しかも、くびれた腰がなんともいえない魅力的なライン

「セフィ」と叫んでこちらに向かって走ってくる、

さらによく見ると裸の女・・・

その女は飛びつき俺を強く抱きしめる

おれは顔を真っ赤にして抱きつく女におどろき抱きしめられる心地よさに全身の力が抜けて行く

女の黒髪は、腰までの長さがあり濡れてて女の白い肌にひっつき、身体は濡れて赤くほてってる

「なんだろうこれ、夢でも見ているのか・・・」

すこしの間、抱きついたまま泣きじゃくる女の肌のぬくもりがとても心地よく感じた、

女は泣くのをやめ、立ち上がり俺に手を差し出した、

俺はその手を掴み立ち上がったが、服が濡れててその重さですこしふらついた

着ている服は着物の様な感じの服だが和服に比べかなり厚めで質素だ

ズボンも似た様な感じだ

ふらつく俺を支えようと俺の腕を女は抱きしめてくれた、

そして、そのままその腕を抱きしめたまま二人は、女のきた方向の上流に向かって歩き始めた、

おれは、手を繋いだ女ののからだをいけないとは思いついチラチラ見てしまう

くびれた腰に小さくともない胸の膨らみににやけてしまう、

でも、右腕に付けている真っ白な鉄のような籠手がとても気になる

不意に女と目が合ってしまった、女の瞳はとても深い青で見ていると吸い込まれていく感じがする

泣いていたのか目が赤くなっていていた

そして、俺を睨んでいる様にも見えた、

おれは、すぐに視線をそらし下をむいてしまった、

心の中で、「やばいじろじろみすぎた?それよりなんでこの女裸なんだよこれじゃ見て下さいと言ってるようなものじゃないか・・・」

おれは、うつむき握ってる手を離し立ち止まった

そうすると、彼女は「セラフィ大丈夫どこか痛いところない?」と聞いてくる

俺は小さい声で、「うん大丈夫」と答えた、

女はおれの手を取り「早く行こう、このままじゃ私恥ずかしくてそうしていいかわからなくなるよ」

女は顔を赤くしてセフィに微笑む

おれも顔を赤くして、握った手を強く握り返し、また歩き出した


やがて轟々というすごい音が聞こえて来た

視線を上げ音のする方を見て見ると大きな滝が見えてきた、

滝から落ちる水はしぶきを上げ霧のように滝壺のあたりを白く曇らせる

そして滝のかなり手前には人の背の3倍はあるよう大きな岩があった

女は「ここですこし待っててね」と言うと

繋いでた手を離しあわてて大岩の向こう側に消えていった

おれは、その場で立ち止まり滝を見上げここであったことをなんとなく思い出して来た

『あの女と、確か一緒に来て・・・おれは滝壺の近くでモリを使って魚をとってたような・・・で・・・何か悲鳴が聞こえて・・・すごい音がして・・・いつのまにか水の中にいて・・・何かでっかいものに潰されるように・・・』

すこし頭が痛くなりしゃがみこみ両手で頭をかかえる

『で、気がついてたら川に浮かんで空を見ていた・・・それで、あの女だれだっけ・・・もうちょっとで思い出しそうなんだけど』

裸だった女が服を着て桶を持って大岩からこちらに向かって来た

おれは、しゃがみこんで目を閉じ必死に考え込んでいると

女はおれが苦しんでいるのかと勘違いして

「セフィ!」と叫んで駆け寄って来た

女は寸前のところでつまずき、おれに覆いかぶさるように倒れてきた

「あ、きゃー」

「え、なに?」

見上げると女の胸がおれの顔に覆いかぶさり2人とも地面に倒れる

「ごめん、セフィ大丈夫?」

「あ、大丈夫です、えへ」

「どこも痛くない?」

「はい・・・痛くありません」

おれは、胸の柔らかさに顔がほころぶ

そんなおれに気がついたのか、女は顔を赤くして立ち上がり

近くに転がっている桶を拾い、すこし恥ずかしそうに

「セフィ水汲んで帰ろっか」

おれは、恥ずかしそうにしている女を見て、とても大事なことを忘れているような気がした

おれは、桶を受け取ると水を汲み片手で持ち上げた

「さー行こっか」

女は歩きだし、おれはその後についていった

おれは、女の後ろ姿を見て、何時もこの後ろ姿を見て歩いているのを思い出し

そのまま女の後ろ姿に見とれてしまった

いつのまにか水の音はしなくなり、風に揺れて擦れる木の葉の音に気がつく

「て?どこだここ?」

周りを見渡すとここは森の中、

「おねーちゃん」

女はふりむき「なに?」

「えーと・・・おねーちゃんの名前なんだっけ?」

首を傾げながら「ニーナよ」

「あ・・・そうそうニーナ、それでニーナ」

「ニーナじゃないでしょう」とセフィの頬をつねる

「イテテ、なんでー?」

「それが、姉に対する態度」

「え、姉・・・おねーちゃん・・・」

「そう、よろしい」

ニーナは、にこりと笑うとまた、前を歩きだした

『そうだ、おれは何時もこの人の後を見ていたんだ、おねーちゃんの後を、なんで、こんな大事なことを忘れていたんだろう』

木の葉の擦れる音と、鳥の鳴き声が響く中、セフィは姉の後を追いかけていった


やがて視界がひらけ、その先には背の高い屋根が急勾配の藁葺き屋根の家が見えて来た

どの家も窓はやや高めの位置についている、

家と家はすこし離れて4件、周りに小さな畑があるだけの何もないところだ、

なぜか、物音は聞こえなく、人の気配がまったくしない

手前の家以外は、どの家も扉と窓を固く閉ざている

『あれ、いつもと違う』

おれは、ニーナに聞いた「みんな、どこいったの」

「昨日、言ったでしょう、わたしとセフィはここに残って、他のみんなは近くの村に避難するって」

「ん・・・おれと、ねーちゃんで残って何するの?」

「ここで、マリーが来るのを待つのよ」

「マリーってだれだっけ?」

ニーナは片手で額を抑えながら

「え、セフィ忘れすぎ・・・」

ニーナは呆れながら手前の家に入り、腰ぐらいの高さの壺に川からくんできた水をいれた

家の中は、薄暗い感じで土間が奥の方までつづき、右側に囲炉裏のある板間がある

上は、吹き抜けの様な感じだが二階もあるようだ、板間の奥に階段のような梯子が見える

ニーナはおれを引っ張り、囲炉裏の前に座らせる

いつの間にかお椀に食べ物を入れそれを、おれにわたす

「はい、これ食べておもいだそう」

お椀の中を見ると、芋のようなものと動物の肉みたいなが入っている

「これ、肉じゃが?」

「え?・・・ちょっとちがうかな、食べてみて」とにっこり微笑む

おれは、ニーナからお椀と箸を受け取り

芋のようなものを、口にいれた、

しょっぱい芋の味、一口二口といつのまにか全部食べていた

ニーナはまた微笑むと、

「お腹すいてたんだ、もっとあるよ」

おかわりをくれた

おれは、腹一杯食べて、ついウトウトしてしまった


ニーナは居眠りをしているセフィを見て、すこし不安な表情をして

「マリー早く帰って来て」とつぶやき

両足を両手で抱えて頭を伏せ昨日のことを、思いだしていた

昨日の朝のことだった、突然マリーがやって来て

「ニーナ、よかったここにいたのね」ハーハーと息を切らしニーナを見つめる

「あー、マリー久しぶり、どうしたのそんなに慌てて」

ニーナの母「マリーさん、お元気そうで」

「ニーナのお母さん、お久しぶりです」とお辞儀をする

「そ、それよりニーナ、聞いて欲しいことがあるの」ニーナに駆け寄る

ニーナの母はマリーを目で追いながら「あらあら、どうしたんですかそんなに慌てて」

マリーは振り返りニーナの母をみて「そうだ、おばさん、お願いがあるの村の人達みんなをここにあつめてもらえませんか?」

ニーナの母「え、みんなですか・・・」すこし考え込み「もう何人かは狩とかに出て戻るのは日暮れあたりになりますよ」

「いる人だけでいいわ、おねがいします」

ニーナの母は、持ってた掃除道具をすぐ近くの家の壁に立てかけ、他の家々を挨拶しながら回って行った

すぐそばの家から、マリーよりすこし背の高い少年が目をこすりながら出て来て

「なんだよ、朝っぱらからうるさいな」

ニーナ「セフィおはよう」

セフィ「おはよう、ねーちゃん・・・で、ついでにマリーも」

マリー「セフィおはよう、わたしはつでなのね」と不機嫌になる

どこからか、マリーの近くで囁く声が聞こえる「この少年だ」

マリーは真面目な表情になり小さく囁く「わかりました」

セフィ「なにブツブツいってるの・・・もしかしてトイレ?」

マリー「違うー!わたしは、急いでるの」と拳を握る

セフィ「トイレそこだぜ」と親指で指差す

ニーナ「セフィ・・・だめよ、そんなにはっきり言っちゃ・・・」恥ずかしそうに顔を赤くする

マリー「え、ニーナまで、わたしトイレに行きたいんじゃ無くて、みんなに話しがあるのよ」と叫び地団駄を踏む

周りからクスクスと笑い声がする

マリーは周りに気がつき「あ・・・」顔を赤くしながら「オッホン」と振り返り

「みなさんに、お願いしたいことがあります、この村から離れてどこか近くの村に避難してほしいのです、理由はわたしが、初めてこの村に来た時と同じことが、明日の夜起こるからです」

村の人達がざわめき村の1人がマリーに聞く「夜って、あの白い夜ですか?」

マリー「はい、ですから3日ほどここを離れてほしいのです、あとここにいない人は誰ですか?」

村の人達は見回し、その1人が答える「スランだけだなぁ、朝弓持ってでかけてたなぁ」

マリー「スランにはわたしから伝えます、他の人はできるだけ早く離れてください」

村の人達は不安になり「しかたない、言う通りにするか・・・」とみんな自分の家に戻っていった

ニーナの母「ニーナとセフィ、あなた達も準備しない・・・」

マリー「まって、おばさん、ニーナはわたしと一緒に来てほしい所があるの・・・あとセフィと・・・」下を向き申し訳なさそうに

ニーナの母は驚いた様に「ええ、ニーナとセフィだって・・・大丈夫なの・・・」

マリーはニーナの母を真剣な表情で見て「はい、大丈夫です」

ニーナの母はすこし戸惑ったが「わかりました、お願いします」と言っって家に戻っていった

ニーナは不安そうな表情でマリーを見つめている

マリー「ニーナあの時と同じ様にわたしを信じて、きっと助けるかた」とニーナの手をぎゅっと握りしめる

ニーナ「うん・・・」

マリー「じゃ、ニーナはセフィとここにいてね、家から出てもいいけどあまり遠くには行かないでね、わたしはスランを探しにいくから」

ニーナ「うん、待ってるから早くお願い」ニーナはマリーの手を強く握り返した

そして、マリーはスランを探しに行った


両足を両手で抱え込んでたニーナは「よし!」と言うと

立ち上がり食事の後始末を始めた。




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