ガーディアン・キー『魔王の話』
面屋サキチ
第一話 プロローグ
オレの生まれた国は小さな国で、大きな争いはなかったが、差別のある国だった。オレの名前はロジェ=マルク。赤毛の虎系獣人、火の民だ。
十字を太くしたような歪な形の世界地図の中、南の端に位置し、周囲を山脈に囲まれ孤立した小国で生まれ育った。
古くは火の民がこの地の豊富な鉱石を求め開拓した鉱山の村だった。豊かな自然は水の民との共存を可能にし、彼らはこの肥沃な土地を耕し田畑を作り上げた。古くより我々二種族は、乾季には火の民の鉱山夫を中心に山を掘り、雨季には水の民を中心に農耕に励んできた。
そこへ星の民が流れ住むようになり、商魂逞しい彼らは我々からそれらの素材を買い上げた。
そうして、一次生産と二次生産の関係が出来上がった。その生産の流れをバランス良く維持し、我々は長く共存して在れた。
オレが生まれたのは郊外にある鉱山夫の家だった。父は鉱山夫として主に乾季に鉱山へと入った。彼の掘り出してくる鉱石は良い値段で売られ、オレたち一家を支えた。母は厳格でしかし自愛に満ちた人だった。
雨季には一家一丸となって農耕に励み、決して豊かではなかったが、オレたち一家は幸せに暮らしていた。
両親は良く働き、オレと弟を心の底から愛し育んでくれた。オレは勉学・拳技に励み、長兄と言う責任感のような物も僅かながら感じ、両親への恩返しのように、オレは日々学び働いた。
気が付けばオレは集落の中でも一・二を争う拳技の腕を持つようになり、行く行くは集落の新たなリーダーにと注目を集めるようになっていた。しかし、オレとしては集落のリーダーよりも、ただ年の離れた弟を守りたいと言う気持ちの方が大きかった。
弟は生まれつき免疫力に乏しいと言う奇病に冒されていた。体力自慢の火の民には珍しく体力が無く、しかしその代償に異端的なまでの魔力を持ちえていた。異端視される弟は不憫ではあったが、弟は両親譲りの気丈さで、自ら進んで魔道の道を進み、底の見えない探究心と博学さでその知識を深めた。
そんなある時、弟の持つ魔道書のひとつの中に、我々集落の者たちが掘り当ててくる鉱石についての見聞を目にした。その見聞に違和感を持ち、弟と共にその検証を行った事で、オレたちはある奇妙な点を目のあたりにする事となった。
我々一次生産者が供給する良質の鉱石が、商人たちの手によって不当な価格で取引されている事を知ったのだ。魔力を増幅させると言うその鉱石は、魔導師の間で高値で取引される。更には水の民が作り上げた良質の織物についても同様だった。
市場に出回る価格が上がる中、魔道鉱石も織物も、全てにおいて質に見合った価格での取引が成されていなかったのだ。
更に調査を進めたところ、国から課せられる税金についてもおかしな事が分かった。国が興った頃は我々一次生産者には軽い税が課せられるのみだったが、現在我々に課せられている税金は当時に比べ跳ね上がっていた。国の債務が多額になったなどと言う話は一切聞かないのに、我々にまで多額の税を支払わせている。
それらは我々三つの民が共存する為に築き上げられて来た信頼関係を崩す物として揺ぎ無いものであった。
その事実を集落の長へとその報告し、商人たちを訴え、国王への書状も送ったが、それは国の上層部によって揉み消されると言う結果に終わった。待てども待てども送った書状の返答はなく、更には追徴課税なる通知書が届けられる結果になった。
全ては金。金が物を言う世になぞ、いったい何時から歪んでしまったのだ。三つの民が良い関係であったのは過去の話になっていた。
オレは国を、後からこの土地へとやって来て我が物顔で先人たちを蹴落とすような星の民を恨み、国王として君臨する王を、腐り切った国の上層部の人間を恨んだ。その悔恨の念こそが、広き世界へと続く扉を開ける鍵となった。
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