第6話 二時間目を待ちながら(6)

 ある日。二時間目を待ちながら。


夏海は嬉しそうに心春の席にやって来ました。

「なぁ、心春聞いて。今日な、朝来るときな、子犬見たねん」

「へ~」

「それがな、その子犬、短い足を一生懸命動かしとって必死で歩いとんねん。でも顔は笑 ってるんよ♪」

うっとりするように話す夏海ですが、見た者でないと、なかなかその感動を伝える事は難しいようでした。

「そんなに必死に足を動かしてたんだ?」

「せやねん。忙しそうに足動かしてるのに、顔は余裕そうに笑ってるギャップがな、また――」

「ムカデみたいだね」

「ムカデッ!?」

夏海の頭の中のかわいいイメージが転落していき、夏海は一時放心状態になりました。夏海はムカデや爬虫類が大の苦手なのです。心春は、これはいけないと思い、

「えっと、ムカデじゃなくて、ムカデ競争みたいだね、って言いたかったんだよっ」

と慌てて言い直しました。

「ムカデ競争? そうか~、なんやぁ~。ん? でも、足短いのに顔は余裕や言うたら、ムカデ競争の皆さんに失礼やん」

「ムカデ競争の皆さん?」

「うん。それに朝からなかなか、ムカデ競争の皆さんに出会う事なんて、難しいやろ?」

「ねぇ、夏っちゃん。さっきから『ムカデ競争の皆さん』って言葉、ちょっと変じゃない?」

「え? じゃ、なんて言うん?」

「『ムカデ競争をしている人たち』かな?」

「つまり、ムカデ競争の皆さん、やろ?」

「うん。まぁ、そうかな?」

「つまり、うちが言いたかったのは」

「ムカデ競争をしている人たちを、夏っちゃんは『ムカデ競争の皆さん』と呼んでいる、って言う事でしょ?」

「そうそう、ムカデ競争の皆さんがな—― って違うわ! かわいい子犬を見たって言いたかったの!」


二時間目開始のチャイムが鳴りました。

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