二時間目を待ちながら
@sirokami-siro
第1話 二時間目を待ちながら(1)
奈良県の(奈良県でなくとも別に構わない訳ですが)とある教室にて。
心春こはるは自分の席に座り、欠伸をしていました。そこに夏海なつみがやってきます。
心春はちょっとおっとり(ぼんやり)した女の子で、夏海は明るくさっぱりした関西弁(風)の女の子です。
夏海は空を指さし言いました。
「なぁ、心春。見てみ。飛行機雲や」
心春は夏海のゆび指した先に、飛行機雲を見つけました。
「わ~。すごいね、夏っちゃん」
心春はそう言うと付け足しました。
「おいしそうだよね?」
「おいしい?」
夏海は腕組みをして考えました。
「まぁ、そんな風に見たことないけど」
夏海はまたしばらく考えた後、
「おいしくはないやろ!」
と、いきなり心春につっこみました。しかし、心春も引き下がりません。
「で、でも綿菓子みたいだよ。むしろ綿菓子だよ!」
「いや、違う。断じて違うから」
夏海は即答した後、一応心春の考えに歩み寄りました。
「まぁ、あれが全部、ほんまの綿菓子やったら? おいしそうには見えるな」
「でしょ?」
「でもあんな高い所にあったら、例え、仮に、百歩譲ったとして食べられたとしても、手に入れるのは無理やな」
心春は腕組みをして『う~ん!』と真面目そうに考えた後、今度は思いついたように言いました。
「そうだ! 空を飛んだらいいんだよ!」
「無理やろ! いや、例えばな、飛行機とかヘリコプターで空を飛んだとしても、どうやってあの雲を手に入れるの? って話やろ?」
心春は、それは大丈夫と言った表情で
「タケコプ—―」
「『タケコプター』はないで」
心春が言う前に、夏海は即座に言い返しました。
「もっと現実的に考えらな」
心春は再び考えると、言いました。
「じぁ、人がロケットみたいに飛んで行く、とか?」
「人間ロケット?」
夏海の言う『人間ロケット』とは、おそらく人間がロケット弾のように遠くへ飛ばされる、という物騒な(むしろシュールな)物だと思われます。
「うん! それ!」
心春が勢いよく相づちを打つと、夏海も真剣に考えながら言いました。
「人間ロケットか。でも人間ロケットやったら飛んだのはいいけど、運が良くて一口食べて、そのまま落下して、たぶん即死やな」
心春は突然、夏海の両腕をガシッと強く掴んで涙目で言いました。
「死んだら駄目だよ!」
夏海はすかさず言います。
「いや、うちが死ぬわけじゃないから!」
心春は気を落ち着かせ、話を続けました。
「じゃ、ここの教室から思い切り息を吸い込んで、飛行機雲も吸い込む、とか。どう?」
「飛行機雲を吸い込む前に、色んな物吸い込んでしもて、飛行機雲が口に入る前に腹いっぱいになってしまうな」
「手を伸ばして飛行機雲をつかむ、とか」
「もう人間技じゃないな、それ」
夏海は冷静に言いました。
「いや、だから、もっと現実的に考えらなあかん」
「現実的に?」
心春は腕組みして『う~ん』と考えると、言いまいした。
「夏っちゃん?」
「ん? なんか思いついた?」
「現実的に考えた結果なんだけど」
「うん」
「飛行機雲は多分、食べられないんだよ」
「ん? え? いや、それは最初から分かっているよ!」
二時間目授業開始のチャイムが鳴りました。
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