セコンド ストーリア〜仮想世界移住計画〜

@1217comic

プロローグ

近年、あらゆる物の情報デジタル化が進み、それは我々にとって、大きな至便さをもたらすこととなった。


手紙、時計、カレンダー等、身近にあるものがそれであり、今ではお金──つまり、電子マネーも、その例外ではない。

そこで、ある見解に辿り着く。


──〝人間もいつかは、情報と化するのではないのかと…。〟


個人が持つ、ヒトゲノムをフルスキャンすることにより、遺伝情報は読み取られ、神経組織、筋組織、上皮組織、結合組織等、


──全ての器官が、ここの情報体として生成されるのではないかと。


情報体と化し、コンピュータ内で、我々が生活できたのだとすれば、我々は──食事も、排泄も、睡眠も摂る必要は無くなる。


もし、システムの都合上、コンピュータ内で食欲、排泄欲、睡眠欲が生まれたとして、それを実行したとしても、生まれるのは、満腹感でも、排泄物でも、覚醒感でもない。


──ただそれを行なったという、情報だけである。


──この見解に僕が至ったのは丁度、五年前、


僕が12歳の時だった。


〝生体フルスキャニング〟──僕が生み出し、そう命名したこの技術は、この生体を隈なく、いや〝100%〟。


完璧にスキャニングすることができ、それをコンピュータ上に、URLとして転写することも可能とした。


──後は意識をそこに移し、新たな自分の居住空間を創り出すだけなのである…。


──そして、西暦2049年──


僕、16歳。


遂にスキャニング装置を開発、サイバースペースへの移住を成功させた。


そして半年間、サイバースペースを拡張し続け、最終的に地球サイズの空間を作り出すことに成功。


──そして、西暦2050年──


文明は大きな岐路を迎えることとなった。


人間だけにとどまらず、僕はこの世の万物、全てのスキャニングに成功し、データ化を可能にすると共に、スキャニング装置の小型化に成功。


理論上では、これで世界人口約100億人を仮想空間へ移住させることを可能とした。


これを知った各国の政府は、これまでの文明を覆す、大々的プロジェクトを打ち出した。


生体スキャニング装置を、増加した世界人口、約100億人に強制頒布し、


〝全ては持続可能な世界の為に〟


という信念を強く民衆に打ち立て、世界人口約100億人の仮想空間への移住を開始させた。


──そう、この計画を遂行することにより、社会問題とまで発展した、地球温暖化、食糧問題、貧困問題。全て、諸々解決である。


我々人間が──いや、全ての生態系がデータ化し、コンピュータ上に移住することにより、肉体は、ごく自然的に消滅する。


──正確に言えば、コンピュータ上に意識を移住させることで、現実世界にある肉体の意識はなくなり、植物状態へと陥り、やがて心肺は停止し死に至る。



Information Human Body──俗に〝IHB〟と略された、情報と化した人間を総称する言葉は世界中に広まり、我々は人という人種を捨て、新たにHIBという新たな種を作った。



こうして、西暦2050年、7月

──〝セコンド ストーリア〟

僕がそう命名した仮想空間に、全ユーザー数100億人が、移住を完遂させた──。




──しかし、この時はまだ気づいていなかった。


この時すでに犯していた、僕の大罪に。


後に僕は、この100億人を、


──殺すこととなってしまう─

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