第19話 力の輪(後編)
――― お台場 フジテレビ本社ビル ―――
PVDOへの襲撃と時を同じくして、巨大ジーズがお台場に出現していた。裏の世界ではない。日曜日だけあって観光客で混雑している。
身長37m、体重2万t。4足歩行と尻尾でその巨体を支え、目は1つ。能力は何も持たないが、ただ歩くだけで人を踏み潰し、体当たりだけでビルをなぎ倒す。怪獣型、とPVDOにおいて呼称されてりうこのジーズは、インパクトこそその体躯並に大きい物の、動きは鈍重であり、的としても大きく、『生体移動』『インプラント』『トーチャー』など対処出来る能力が多く存在し、まず目立つので脅威としては中の下といった所だった。
だがそんな怪獣型も、表の世界でジーによって直接召喚されたとなれば話は別だった。
「み、見えますでしょうか。ただいまこちらお台場フジテレビの真ん前に、見た事もない巨大生物が現れ、ば、場は騒然となっております。正体も被害も不明。あ、今こちらに向かって……逃げ……」
番組を中断し、生放送で流されたその映像は、まさにジーの思い描いた通りだった。轟音と共に、たった一撃で建物は半壊し瓦礫の山が築かれる。周囲は観光客の悲鳴と血で満たされていく。逃げ惑う人々の中にはあまりの現実感の無さに踏み潰される直前までスマホで眼の前の光景を撮影する者もいた。
「やられた。こっちは陽動だ」
怪獣の出現から1分が経過した頃、エフがネットから情報を掴んだ。本部への被害確認と少女の安否を優先した為の遅れ。その僅かな時間を使って怪獣型は破壊を終えていた。
「とにかく一般人を1人でも多く救え」
エフが指示を出し、エルが少女達を転送する。本部に居合わせた少女達にとってみれば、全くもって予想外の連戦。
「周囲にジーがいる可能性がある。発見したらすぐに報告。私とエルで仕留めに行く」
怪獣型が突然出現したという事は、ジーがその場で召喚したという事に他ならない。だが、実際は既にジーは裏の世界に退避を済ませており、エフもその可能性が高いと踏んでいる。後手ではあるが、一応の指示だった。
怪獣型は鱗のような皮膚に覆われており、物理攻撃に対しては硬さを持つ。と言っても、どの道出現して1分では自衛隊も間に合わず、幸か不幸かこの国にはすぐに発射できる核兵器も無い。
数分前まで保たれていた平和はいとも簡単に崩壊し、甚大なる殺戮は進行していた。
「情報統制は無理か?」
タムが尋ねると、エフは答える。
「目撃者が多すぎる。動画を片っ端から削除する事程度なら出来るが、何も無かった事にするには死人も出すぎている。それに、『生体移動』の使い手があいにく今は本部にいない。ニュートラルを呼び出して付与するには時間がかかりすぎる」
「……つまり、フェイズ2って事か」
「ああ」
フェイズ2。それは事前に想定されたPVDOのポジションに関する定義だった。これまでのフェイズ1では、PVDOはあくまでも一部のメンターにのみ知られた秘密機関であり、世間一般には情報を隠す。関わる者の数を最小限に絞り、記憶の操作も駆使して。混乱を避ける。
だがフェイズ2に移行すれば、PVDOは対脅威機関としてその立ち位置を主張する。それは少女達の存在を公開する事を意味する。
怪獣型ジーズの出現から1分半が経過し、お台場には10数名の少女達が転送されていた。能力を駆使しての救助活動が行われる。特にPVDO所属のサポート型は、『空中浮遊』によって一般人を避難させ、『ヒール』によって傷を負った人間の治癒を行い、『劣化分身』によって誘導、統制とフルに活躍する。
他にも『バリア』で落下する瓦礫から一般人を守る者や、『清水』による消火活動など、とにかく被害者を最小限にすべくそれぞれが立ち回る。
そして出現から2分30秒。
崩れかかったフジテレビ本社ビルの屋上に、ある少女の姿があった。
「迸る魂を闇に鎮め、黒洞々たる沈黙を見つめよ! 邪眼『デスパトーレ・アルムサス』!」
セムジアの発動。
H-29-V『死線』
2分間見続けた生物を殺す。
オプションにより最短1分の発動が可能になったこの能力で、怪獣型ジーズはあっさりとその命を失い、巨体がゆっくりと倒れこんだ。無論、倒れ込む方向は既に他の少女によって避難を済ませている。それは見事な連携と早業だった。
それでも現場は混乱が続いている。PVDO側も少女の動員を増やして対応を急ぐが、救える数には限りがある。どんな能力であろうと、死んだ者を蘇らせる事は出来ない。
テレビ各局で報道が始まり、生き残った一般人が凄惨な様子を動画でアップロードし始めると、混乱は怒り、悲しみ、疑問、諦観など様々に形を変え、徐々に日本、世界へと広がっていった。
一夜にして、怪獣型の不気味な姿と共に少女達の姿も知れ渡る事になる。
そしてPVDOが、初めて一般人に向けて会見を開いたのは翌日の事だった。
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