第10話 リーダー戦
アキラは素早く身体に向かって引き金を引き、自身の減っているだろうHPを更に回復させる。
『カチィンッ』と弾切れを起こすと、シヴァをリロードした時同様に、利き手ではないはずの手で素早く慣れた動作で片手でリロードを完了する。
これもオルタースキル【リロード】の恩恵だ。利き手ではないにも関わらずこれ程自然に、難易度の高いリロードが出来た。
命を繋ぎ止める確かな手応えを感じたアキラは、油断無く周りを窺いながら回復させる。
「ヴォウ!」
動かない手下に痺れを切らし、ウルフ・リーダーが一吠えする。すると、群れが再度アキラに向かって突撃してきた。
アキラを囲いながら襲うも、シヴァで牽制しつつ、左手の緑色の銃床で近づいてきたウルフを殴りつける。
「ぎゃん!」
鳴き声が聞こえるが、シヴァ程うまく倒せない。ウルフが地に伏せるも、まだ死んではいなかった。
それを見たアキラは、即座に力強く足で踏みつけることでウルフに止めを刺す。
その隙を狙ったのか、右からウルフが襲ってくる。すぐに零距離射撃で轟音を轟かせながら倒し、左から噛み付く動作に入っているウルフにはシヴァの射撃の反動を使って、左肘を勢いに任せて突き立てる。
勢いに任せて殴りつけた肘打ちはウルフの噛み付くタイミングをずらすだけでなく、その肘がウルフの口の中へと突き刺さった。
深く入った肘を噛もうと力を込めるも、アキラの肌はウルフの牙を拒否するかのように浅く肌を凹ます程度で済んでいた。
アキラは深く入った肘を、力いっぱい肘を背後へ引く。肌から牙が一瞬だけ離れ、引き込まれた肘は、その隙を突いて滑るように腕が動く。
その勢いを利用してウルフの側頭部に緑色の銃がハンマーのように襲いかかった。
銃床で吹き飛んだウルフは、その勢いから首は非ぬ角度を向いている。光の粒子を辺りに撒き散らしながらその命を散らした。
後ろから迫るウルフはシヴァの反応で即座に対応出来た。振り抜いた左腕の勢いを使って身体を左に捻りながら、右手に握られたシヴァの銃床でウルフを殴りつける。
アキラの体が半回転して捻りを生み出したその一撃は、当然のようにウルフを光の粒子に変えていく。
周りにウルフが居なくなるこの瞬間に、素早く左手にある緑色の銃で回復を図る。狙いを付ける必要が無いので行動は迅速だ。
怪我を治療してウルフを倒す手順を繰り返し、最早先ほどまでの数の不利を感じさせないほどウルフは次々に倒れていった。
気がつけば全てのウルフを倒しきり、レベルも2つ上がった。技も【ピンポイントシュート】と言うスキルを習得していたが、夢中で目の前の敵を屠るアキラにそれを気にしている暇はない。
最後のウルフを倒し、怪我を緑の銃を使って回復してリロードまで済ます。
素早く回復を済ますと、群れのボスであるウルフ・リーダーにアキラは走り出す。最早先ほどまでの狩られるのを待つ弱ったヒューマンは存在しない。
逃げるという選択肢も元から選べないアキラは、これがこの逃走劇を締めくくる最後の戦いであって欲しいと願い。全てを出し切る覚悟を持ってウルフ・リーダーに襲いかかった。
遠距離からウルフ・リーダーを銃で牽制するが、銃弾が当たってもウルフ・リーダーは多少毛皮を焦がす程度で、
想定内のことなので、本当の勝負は接近してからだ。とアキラは力んでいる。近づいてきたアキラにウルフ・リーダーは爪で牽制し、素早くバックステップで後退する。
その一連の動きが素早く、驚きでアキラは身体を硬直させる。
(さっきまでの雑魚とは動きが段違いだ!しかも俺の攻撃を学習している節がある…)
その思惑は的中する。多少のダメージにしかならないシヴァの弾丸は避ける素振りすらせず当たるのだが、近づいたら牽制程度の爪で攻撃して離れる。
まるでその攻撃だけは喰らわないと言っているようだ。
そんなヒットアンドアウェイを繰り返され、牽制と言ってもアキラにとっては小さくないダメージなのだが、左手の銃で回復と接近を繰り返す。
そんな膠着状態が訪れていたが、それは長くは続かなかった。
「え!はぁっ!?」
アキラが左手の銃で回復をしようとしたが、弾丸が発射され無かった。原因は単純で、MPの枯渇である。
あのような回復がノーコストな訳がないのだが、あの状況ではそこまで頭は回らないのも仕方が無い。
それが魔法職ではないが故に、MPを消費すると考えていなかったアキラに待っていた現実だった。
アキラの心に有った余裕と言うなの壁はその実、突けば一瞬で全面にヒビが走ってしまうガラスのような物で、膠着状態が最悪な形で終わってしまう事実に一瞬だけ固まってしまう。
一瞬だが、急に動かなくなったアキラの隙を見逃すウルフ・リーダーではない。当然襲いかかった。
(やべ!)
右の爪を振り下ろして襲いかかり、アキラは遅れながらも左手の銃で防ぐ。すぐ力負けしてしまうと判断し、シヴァを握りながらその銃床で緑色の銃を支える。
その行動は胴が、がら空きになると言う最悪な体制だった。ウルフ・リーダーが容赦なく、左の爪でアキラの腹部を引っ掻いて一声上げながら殴りつけてくる。
「ヴォンッ!」
「なっ…!ぐふぅ…」
アキラは肺の空気を押し出され、後方に吹き飛ばされながら呻き、膝に力が入らなかったせいで踏ん張れずに後転してしまう。
無茶な体制のせいで体が開いてしまって引きづられるように地に突っ伏した。
「う…ぅぅ……」
あまりの苦痛からか、自然と低く呻く声がアキラの口から漏れている。
(景色がグチャグチャして…何が…何だか……と、とにかく立つ…んだ……あれ?)
アキラが思っている以上に重症なのか、はたまたその衝撃のせいなのか、身体に力が入らない。
アキラの視界の左上隅には人形の上に星が回っているアイコンが映っている。ウルフ・リーダーの一撃で[眩む]状態となったことを示すデバフ情報のアイコンだ。
[眩む]状態は一撃でHPの4割以上を奪われるダメージを負うと発生するデバフで、3秒間行動出来なくなる。体には爪の痕が残っており、その傷痕からは出血している。
「な、何…が」
状態異常の知識はあっても体験したことが無い未知の状況に、アキラは混乱して状態異常に気づけていない。
だが、アキラの目にデバフがチラリと見えた。それだけで今起こっている現状を大凡察する。
理解できていなくても、感覚で自身の状態とアイコンの簡単な絵がこの体調を直結する。
(うぅ…そういうことか)
アイコンの下には数字が【2】と出ている。そしてすぐ【1】に変わった。直感的にこの状態が解除されることがわかった。そのアキラにウルフ・リーダーは仕留めるために追撃を行う。
「ま、まじ…かよ…」
吹き飛んだ影響で若干の距離は稼げていたが、3秒と言う時間はあまりにもアキラにとって長くウルフ・リーダーにとって短く、駆けつけられるかギリギリの距離だ。
アキラが噛み付かれる直前に[眩む]デバフは解除されるも、最早噛みつきから逃れることは出来ないだろう。
アキラに出来ることは噛みつかれるのをただ待つだけだ。だが、そんな誰もがわかる結末なら、決してこの先は生き残れない。
そんな意識がアキラにあるのかわからないが、このピンチを勝利に塗り替えることが出来なければ、待っているのは死だけだ。
動けない身体で必死に考え、ある覚悟を持ってウルフ・リーダーを仕留めるチャンスを見出した。
だからなのか、アキラは心底嫌そうな心持ちのまま反射的に庇うフリをして、ウルフ・リーダーに“自分の右腕を噛み付きやすく差し出す”ように防御の構えを取る。
(コイツは俺の右手を危険だと思ってるのは、状況から見てまず間違いない!必ず食い付くはず…多分!)
それは右手にシヴァが戻ってきた時に漠然と思いついた手段の1つであり、オルター覚醒の時に出たメッセージを信じるなら出来るはずだと考えた。
時間も残されていないアキラにはこれが精一杯だった。
(命欲しさに捨て身になれ!)
その方法を見せないようにするため、最早試すことも出来ない。一度見せれば何かしら対応されてしまうとこれまでの経験から思えたからだ。
「ウォォォォォォオオオン!」
「!?」
ウルフの叫び声と共に身体が硬直する。一瞬の硬直だが、ウルフはその一瞬で十分だと判断するかのようにアキラの想定通りに噛みついてきた。
噛みつかれたせいか、力が入らず、首を強く振られたのも相まってシヴァを手放してしまった。
それはウルフ・リーダーにとって最適で、アキラにとって計算外の
が、その一撃はあまりにも強烈で、アキラは意識する間もなく叫び声を上げていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
(な、なんだこれ!? まるで、神経を…直接……!)
チャンスではあるが、思っていた以上の激痛に、たまらず自分でも驚く程の叫び声が意識する間も無く口から吐き出されていた。
想定以上の痛みに叫び声を上げてしまったアキラだが、力を振り絞り、痛みで視界が眩む中、身体を無理矢理にでも動かそうと歯を食いしばる。
(ここでなんとかしなきゃ終わるんだ!何か……しろ!)
激痛を堪えながらも生きるために、その行動を起こす。
素早いウルフ・リーダーを捉えるにはこれしかないと信じ、今以上の痛みが来るのを承知で、噛まれた腕を思いっきり下に叩きつけるように振り下ろした。
ウルフ・リーダーの口を自身の腕に縫い付けるかの如く、下顎を地面に固定しようとしたのだ。アキラが最初のチュートリアルでやったウルフ戦と同じように。
だが、相手は先程の雑魚とは違ってリーダー格なせいか、虚しくも多少顎が下がっただけで堪えられた。
「ぐぅ……!」
「グルゥヴヴ」
しかし、アキラも負けてはいない。出だしを挫かれても目的を定めた今のアキラはその程度では止まらない。
その状況を利用してゆっくりと身体を起こす。
「い、いい加減……に」
地に足を踏みしめ左膝蹴りをウルフ・リーダーの下顎に力の限り叩きつける。
「動けぇぇぇ!」
一瞬その衝撃にアキラの腕を貫いている牙から痛みに目が眩むが、それは相手も同じようで、下顎に叩きつけられた挟み込むような衝撃に首の支えが少し緩んだ。
その隙を利用して今度こそ、地面にウルフ・リーダーの下顎を縫い止めることに成功する。
その成果は更に痛みを上乗せしてアキラを苛む。牙が食い込み、痛みで視界の周りが銀色に近い灰色で覆われ、目は殆ど見えていない。
通常なら興奮でこのように鋭い痛みを感じる筈がないが、それが相手の特性らしく容赦なくボロボロの体に痛みで鞭を打ってくる。
痛みによる震えとシヴァを手放したことで力が失われたせいか、自然と腕に力が入らなくなって来ている。
(あと…少し、あと少しなんだっ…!)
アキラは左手にある緑色の銃を仕舞う。緑色の銃からリアクションが伝わるが、それどころではない。
なぜその銃で殴らず収めたのか、その答えがアキラのやるべき最後の足掻きだった。
アキラは緑色の銃のオルターを仕舞ったばかりの左手で再び自身のオルターを呼び出した。現れたのは緑色の銃ではなく、三本の赤の光るラインが溢れ、眩く輝く黒色のメイン武器である
ウルフ・リーダーは顔を外側にしてアキラの腕に噛み付いているせいか、何が起こったか理解していない。
しかし、何か異変に気づいたのか腕を振りほどこうともがくも、シヴァを握ったアキラは先程とは比べの物にならない力で、しっかりとウルフ・リーダーを縫い止める。
牙が離れないせいか、ウルフ・リーダーは威嚇するように唸る。
「グゥルルル…ヴォン!」
危険な所を抑えたと思っているウルフ・リーダーはアキラの右手が動いていない状態なので、すぐには脅威は無いと判断した。
危険だと思ったこの腕が解けないのなら食いちぎろうとイヌ科特有の前足をアキラの右腕に乗せる。
その前足を自身の口の両隣に添えるように置き、顎と前足に力を込めたその時だった。
「……流石に
チュートリアル戦で言ったセリフをまたアキラが告げる。
ウルフ・リーダーが選択ミスをした最後の判断と共に、一度も攻撃を受けていない筈だった銃がウルフ・リーダーに突きつけられ、アキラはウルフ・リーダーに皮肉を聞かせながら最後の力を振り絞ってトリガーを引く。
『ドカァァン!』
その一撃で額に突きつけられた銃を中心に、尻尾まで亀裂が入った。
『ドカァァン!』
続いたその一撃で亀裂から血が吹き出した。
『ドカァァン!』
更に続くその一撃でウルフ・リーダーが跡形も無く光の粒子のみを残して消滅した。
『カチィンッ』
『カチャ』
『カチャ』
続けて聞こえるスライドレバーが玉切れを知らせる音が、静かに鳴り響く。
ウルフ・リーダーから吹き出した血がアキラに降り注ぐが、それに頓着する余裕は無い。安堵した様子で呼吸を荒げた。そのアキラの最後の戦いが終わる。
「はぁ、はぁ、も、もう限界だ…二度とこんな目に遭うのは勘弁…」
アキラがしたことは、単純に左手にシヴァを召喚するだけなのだが、9割9分出来ると思っていることでもいきなり本番で命がかかった場面で実行するのは戸惑われた。
試すにしても攻撃を学習しているらしき相手の目の前で実行するのは数少ない手札を相手に見せるような物で、ぶっつけ本番でやるしか無かったのだ。
一番大きな要因として相手が賢かったのがよかった。
脅威である右手を狙う状況がこの無茶な作戦の成功を後押ししたからだ。左手で銃口を向けても見向きもしなかったのがその証拠で、その隙を利用して零距離射撃で攻撃を当てて倒すことが出来たのは正に
その結果、行き当たりばったりの行動だったアキラは満身創痍になったが、当然後悔なんてしていないだろう。どんな状況でも諦めなかった結果が今なのだ。
アキラは漸く未来を掴み取ることが出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます