第9話 生存の可能性


 満身創痍となったアキラの手にシヴァが戻ってきた。それにより、未だ終わりが見えない険しい道のりだが、逆境を跳ね除け、活路を切り開く一手を打てるようになる。


 そもそもシヴァの銃撃は想像していた銃とはとてもではないが言えず、射撃結果があまりにも酷い銃だった。

 だがそれは、序盤だからそこまで一撃が強くないだけだとアキラは考えていた。


 しかし、逃走中に一度だけ弱かった筈の銃撃が大砲のような轟音と共にウルフを葬った。あの時の状況をアキラは思い起こし、あれを再現するしか無いと考えていた。


 あの時にした行動は一つだけで、銃口を零距離で相手に突きつけた状態で射撃する。それで成功するかはアキラも賭けの部分はあるが、最早状況を選んでいる余裕もない。

 生き残るためにアキラは行動に移す。また、その行動を静かに見つめている獣も居る。


「…ぅ…らえ!」


 シヴァを握り締め、足に噛み付いているウルフに対して徐に銃口を押し付ける。唸っているウルフと目が合うアキラだが、未だに噛み付く力を緩めないウルフに零距離から銃弾を放つ。


『ドカァァン!』


 明らかにさっきとは違う発砲音は爆撃音かと思う位の音と、とんでもない威力の攻撃をウルフに与えることができた。

 ウルフは吹き飛ばされ、光の粒子となって消滅し、その場にはアイテムボックスが残ってる。


(やっぱ、そうこなくちゃ…な!)


 思った通りの展開にアキラは自身が感じた活路に確信を持つ。その光景を噛み付いていたウルフが目の当たりにしたせいか、動揺が噛み付いている牙からアキラの身体へと伝わってくる。


 その隙を逃さずアキラの体に食らい付いているウルフ達に次々と零距離から射撃を食らわす。


「ふぅ、ふぅ…ぐっ」


 全てのウルフを吹き飛ばすも、アキラは膝を地に着けてしまう。当然傷は癒えることは無く、噛みつかれた傷跡からは血が止まらず溢れてくる。

 だがアキラはそんなことはお構いなしに相手を睨みつけ、荒げる呼吸に構わず言い放つ。


「ハァハァ…俺は…死んでねぇぞ!ビビってないでかかってこいよ!」


 強気に発言するアキラは、己の状態から最早長くは動けないことを察していた。襲いかかって来ることを前提にして、残り少ない体力を温存する。依然としてピンチである状況は変わっていないのだ。


 そして先程から強く脈打つシヴァが気になり、考える時間が欲しかったためこの機会を利用して考える。


(シヴァを手元に呼び戻してからやけに感情が強く伝わる。最初は俺を心配しているのかと思ったが、違う。これは何かを伝えようとしてるんだ。タイミング的には手元にシヴァが来てからだけど…)


 アキラはレベルが上がり、ソウルが共鳴したメッセージが流れたことを漠然と思い出しながらこの違和感を探っていく。何でもいい、この状態から何をすれば脱することが出来るのか?


 過去の出来事から考察を重ねる。この不思議な世界での事象が生存への道を示すかのような考察は、無意識にオルターに焦点を当てていた。


(そういえばレベルが上がった時にアニマがうんたら…オルターがうんたら言ってた気がする。もしかしてそれのことなのか?)


 地に着けていた膝を震えながらも持ち上げ、飛びかかってくるウルフを銃口でアッパーのように殴りつけながらトリガーを引き、再び轟音を轟かせる。


 動いている内は問題なかったが、追撃が止み一息ついてから改めて動こうとしたアキラは、身体の動きが普段と違って考えられない程鈍っていたことに気づく。


(ダメージが深刻だ。このままじゃどっちにしろ終わりだ。何でもいい、やっと見出した活路なんだ。この状況を打開する何かが欲しい!)


 深刻なダメージは自身を回復すると言う結論には至らない。そもそもバッグからHPポーションを使用するまでの時間を、今の状況で尚且つ周りのウルフの群れが許すわけも無いだろう。


 現状ではオルターに後を託すしか無いと感じたアキラが、左手に心の中に響くオルターのイメージを呼び出すと、左手には右手に握る物と同じ銃の感触が生まれた。


 見た目がベレッタ風なのはシヴァと変わらないのだが、その色は緑色で銃身にはシヴァと似た線が白ではなく黒、それが3本のラインとなって走っている。


 何故かシヴァのように地面に落ちることはないが、アキラの明確な召喚のイメージに応えた結果だろう。


 アキラが最初にイメージしたオルターは二丁拳銃だったが、出てきたのは一丁の銃だけである。


 先ほどレベルが上がり、魂の繋がりが強化されたため、本来創造していたもう一つのオルターが呼び出せるよようになったのだ。


 現在のシヴァは白い線ではなく3本共真っ赤な線になっているが、もう片方の銃の線は黒いままである。アキラは、左手の銃でアバウトに狙いをつけて向かってくる一匹のウルフに引き金を絞る。


『キン』


 まるで真鍮で作られた鐘を叩いたかのような高く響く金属音と共に銃弾が目に見える程度の速度で動いていた。

 その弾丸は標的であるウルフには当たらず、まるでウルフから逃げるようにその銃弾は避けていってしまった。


 慌てたアキラは動揺しつつも、事前に何が起こるかわからずリカバリーの心構えだけはしていたので、向かってきたウルフにシヴァで殴るように零距離射撃で倒す。すると、弾切れを知らせるスライド部分が開きっぱなしになった。


 すかさず弾切れになったシヴァのリロードを行うため、右手でシヴァを持ったまま親指でリリースボタンを押す。

 それと同時に、手首のスナップのみで空になったマガジンを放り出すように投げる。スナップで勢いを付けて弾かれるように抜けた空のマガジンは、地面に着くこと無く光の粒子となって消える。


 そして、アキラは自身の左胸部にシヴァの銃床を叩きつけるように振り下ろすと同時に、弾が装填済みのマガジンが召喚される。


 召喚されたマガジンはそのまま銃に装填できる位置に調整されて召喚されたようで、即座に装填が完了する小気味いい音を聞き、リリーススライドレバーを降ろしてスライドを戻す。


 リロード完了の感触と同時に、左手からは怒りを表すかのような反応が来ている。


(ん?使い方が違うってことか?敵に当てるんじゃないなら…)

「物に当てるのか?」


 考えを伝えるためにアキラは銃に語りかける。が、見当違いなせいか、再び怒ったような感情が伝わってくる。


(やばい、わからん)


 アキラはウルフを睨みつけながら考える。


(敵でも無い、物でもない。なら………え?もしかして…)


 一つの可能性に、否、最早これしか無いだろう結論に至ったアキラは恐る恐る否定してほしいと思いながら銃に思わず尋ねてしまう。


「ま、まさかとは思うが、これ自分に撃つとか言わないよな?」


 銃を自分に向けて撃つなんて有り得ない。銃なんだろう?


 何が悲しくて敵ではなく自分に撃たなければならないのか? と思いながらも左手の銃に対してそこにはアキラの否定しますよね?


 と言う願望が混じって語りかけていた。当然言葉の裏を読めるわけもないのか、正しい使用方法を言ったからなのか、喜びを表すような感覚が伝わる。


「え、えぇ…」


 困惑しながら声を漏らすも、内心は期待していた。アキラの体は最早見る人が見たら助からないと諦念混じりに言ってしまうほど酷い状態だった。


 自身に向けて銃を撃つということは、害意がなければ必然的にバフや回復系統の能力だろう。


 個人的に回復を欲していたアキラは左手の銃に期待を寄せる。そもそもゲームの序盤の戦闘職は大抵自前の回復手段は存在しないし、あったとしても一度使えば再詠唱リキャストタイムやMPによる使用制限があった。


 しかし、回復する銃弾は弾丸があればその分回復出来る代物だ。イメージの1つとして考えていたが、こんな序盤で手に入るとは思いもしなかったアキラは、回復繋がりでアイテムのHPポーションの存在を思い出す。


 先程自分で使用したことすら忘れていたのだ。後悔はするが、時間的に使う余裕は無かっただろうことを思い直し、反省は生きて帰ってからしようと意識を前方に向ける。


 なぜならそんな余裕は与えないと言わんばかりに、ウルフが複数襲いかかってきたからだ。

 アキラは、疑いながらも銃口を右腕に当て、緊張しながら恐怖心と戦いつつトリガーに指を掛ける。


(ま、まじでやるのか?もしシヴァのように零距離射撃みたいな威力出たら…少し離して撃とう)


 心で折り合いをつけながら半ばやけくそ気味に思いっきりトリガーを引く。アキラは銃に対する恐怖のせいで、後もう少しで敵が襲って来ようとしているにも関わらず反射的に目を閉じてしまった。


 自分の体に向かって引き金を引くと言うのはそれはそれで恐怖となり、こんな見る人が見れば自傷行為に見える行動は慣れていなければ戸惑っても仕方なく、咄嗟に見ないようにしてしまうのも当然だろう。


『キン』


「お?」


 そして鐘の音のような銃声と言えるかは怪しくも、甲高い音が鳴ると同時に黒かった3本のラインの1つであるトリガー側にあったラインが緑色に変わっていた。


 そしてアキラは音が鳴った後に衝撃も何も感じなかったせいか、疑問の声を出しながら恐る恐るゆっくりと目を開ける。


 目を開けると、ぼやけて滲んでいた視界が綺麗に映り、体が先程と比べて楽になっている。


 自分の身体に起こった現象を確認すると共に、ほぼ飛びかかられる距離まで近づいていたウルフが居る。


 アキラが首に噛み付いてきているウルフ達を体捌きで噛み付きを躱し、ウルフを次々にシヴァで迎撃出来る程に体のキレがよくなっている。


 緑の銃で自分を撃つことで得られたのはやはりと言うべきか回復だった。全快はしてい かったが、先程まで感じていた重さが取れているのを考えれば非常にありがたい力だ。

 そう思いながらウルフの波が去ってから左手の銃を見る。緑色の銃にある3本の線の内、トリガー側にある1本は緑色に変わっていることにアキラはこの時に気づいた。


(動きを鈍らせる程悪かった体調も少しだけど良くなってる。だけど、回復量はそれほど多くはなさそうだな)


 しかし、そう言いながらも回復手段を見つけたアキラに悲壮な気配は感じられない。頭の中にあった真っ白だった行動予定表に漸く、ウルフを殲滅する。と書けるようになった。

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