第3話 夜食後のキャラクタークリエイト


「よし!セット出来たぞ!っとその前に今何時だ?」


 時刻が指し示すのは、深夜1時30分頃である。予約しているにも関わらず、夜中に並んで購入し、家に帰ってからVRゲームの準備をしていてこの時間になったのだ。

 普通のオンラインゲームならサービス開始の時間はお昼前や夕方、深夜0時等が主なサービス開始のタイミングなのだが、ソウルオルターは深夜の2時がサービス開始時刻となっている。


「もうこんな時間か、変な時間にサービス開始だけどその分早く楽しめると考えれば問題なし!それじゃ今のうちにご飯食べて、キャラクリして時間まで待ってようかな」


 晩ごはんは食べたが、時間的に空腹になっていてもおかしくはないだろう。妹に頼んで作っておいてもらった夜食を、手早く温める。

 メニューは、腹持ちが良くなるように重めにオーダーした。用意されていたのは「チーズオムライス」「ミネストローネ」「コブドレッシングのサラダ」と、夜食にしてはしっかりし過ぎではないのか思わないでもない。

 妹である深緑ふみの作ったメニューは胃に負担が来にくい重さと栄養バランスが考えられているメニューだった。料理を作った妹は時間も時間なので既に寝ていることだろう。

 それに感謝しながら、冷めた食事を温めて食べる。


 最初に手を付けるのはスープだ。温かいスープで深夜に眠ろうとしていた身体を起こすように、ゆっくり味わうことで、食べ物を胃に運ぶ準備をするのだ。

 一口啜る度にミネストローネ特有の程よいトマトの酸味は、寝ていた胃袋を優しく起こすかのように身体全体に染み渡る。


 続いて手を付けたのはコブサラダだ。レタスとブロッコリーとアボガドとエビと小さく切り分けられたササミで出来たサラダで、ドレッシングは別皿に置かれたコブドレッシングで仕上げる。

 そのスパイシーなドレッシングをサラダに振りかけ、エビとアボガドをレタスで包み込んで口に運び、咀嚼する。レタスを突き破って弾けるエビとアボガドはドレッシングと非常にマッチしていて、アボガドとドレッシングに絡まるエビは普段食べるものとは同じ食感でもその蕩ける旨味は、サラダとは思えない満足感を与えてくれる。


 ブロッコリーとササミもコブドレッシングをたっぷり絡ませてから口に運ぶ。さっぱりした塩茹でされた程よい歯ごたえのブロッコリーと、余計な油分が感じられないさっぱりした柔らかさを残して湯通しされたササミは、ベーコンとは違ったあっさりした味わいを感じさせる。後はメインを堪能しつつ残ったスープとサラダをバランス良く食べるだけだ。

 チーズと卵と風味付けのバターで作られたオムレツでガーリックライスを包み込み、一から作った自家製デミグラスソースで味付けされたこのオムライスは、通常のオムライスに使用するチキンライスとは、毛色の違う深緑ふみオリジナルの一品だ。その勢いは間違いなく重量級で、その重い衝撃を土台のサラダで受け流して胃もたれしないように備えたのだ。しかし、口の中はそとは別に少し脂でクドくなっているが、それもまた旨さを感じる。


 濃厚なチーズと、デミグラスソースで脂っこくなった口当たりをミネストローネの淡い酸味が、口の中をマイルドにしてくれた。やはり順序よく食べると美味しく、飽きずにいいペースを保てて食べることが出来る。

 胃の中で戦争している油を熱とコクのある酸味で落ち着つけていきながら、サラダで間を保つのだ。この工程を繰り返すことで、満足感を持続させ胃の中の負担を最小限にし、スープを飲み干し、サラダを食べ終え、メインを片付ける。

 そしてデザートのヨーグルトで最後を締めくくるのだ。

 心と体を満足させるだけでなく、胃もたれやお腹の具合を考えたヨーグルトのアフターケアでその後の憂いすら取り払ってくれる。


 諦は隙の無い完璧な夜食を堪能し、妹の手料理に拝む気持ちで感謝していた。


 勿論食べている本人は、バランスや食べ合わせのこと等は一切考慮していない。ただ出されたものを食べていると必然とそのように食べてしまうだけなのだ。まるで操られるかのように綺麗に平らげてしまった諦は一息つきながら、思いを巡らせる。


 自分のことを考え満足する食事を用意してくれた唯一の家族である深緑ふみに諦はいつもながらの深い感謝をするのだった。

 食べ終わった食器を流しに置き、急いでソウルオルターのキャラクタークリエイトへ向かう。行儀は悪いが、今の諦に洗い物をしている余裕は無いのだ。




【名前を入力してください。】


(名前か、ここはいつも通り本名でいいだろ。本名を、そのままオンラインゲームに使ってるなんて誰も思わないだろうし。【アキラ】っと、それじゃ次は種族か。)


キャラクターを作るときに選べる種族は以下になる。

・【ヒューマン】人族、ほぼ人間と変わらないが、大人の事情で扱いはヒューマンである。

・【ワービースト】獣人と言われる種族で、こちらには獣耳や尻尾が種類によって選べる。

・【フェアリー】妖精種であり、妖精と人との間に生まれた種族である。

内容は【エルフ】【ドワーフ】

・【デーモン】魔族と呼ばれる分類で人との間に生まれた人型のみ。

内容は【ダンピール】【ドラゴニュート】【魔人】

以上の四種族である。

それぞれ長所と短所があり、種族によって能力差も存在する。諦は事前に調べた情報を思い返していた。


 ステータスは、HP《ヒットポイント》、MP《マジックポイント》、STR《攻撃力》、DEF《防御力》、INT《魔攻と魔防》、MND《回復力と耐性》、DEX《命中率と器用さ》、AGI《敏捷》、LUC《幸運》の7種類存在する。

このステータスは種族に応じて、伸び幅と初期値が異なる。


【ヒューマン】一部を除いた全能力が平均より少し低く、DEXとLUCが高水準。

【ワービースト】HP、STR、AGIに特化していて、MP、INT、MNDが極端に劣る。

【エルフ】DEFが低いが、MP、INT、MNDが高水準でLUCも高い。

【ドワーフ】MP、AGIが極端に低いが、HP、DEF、STR、LUCが高い。

【ダンピール】HP、MP、DEF、INT、AGIが高水準で、MNDが壊滅的に低く、LUCが最低点で最も成長し辛い。

【ドラゴニュート】HP、STR、AGIに特化しているが、MNDが壊滅的に低く、LUCが最低点で最も成長し辛い。

【魔人】DEX、LUC以外のパラメーターがダンピールより高水準だが、DEXが最低点で最も成長し辛い。LUCが最低点から成長しない。

※序盤ではステータスの有無は然程重要ではないが、トータルで見れば優劣はある程度わかる位に影響は出る。


(ん~やっぱり平均より低いからか、ヒューマンが弱小種族に認定されるてるのがわかる気がする。大抵のゲームは一点突破が常だからなぁ…命中と器用上げてどうするんだって感じだ。だけどここは俺のプレイスタイルのためにヒューマン一択だな。LUCはおまけだが、DEXは必要だからな)


 種族の選択を終えた諦は、キャラクター設定を行うために次に進むべく決定を選択する。


(なんかやけに読み込み長いな?早く次行けよ…おし、次はキャラクターの造形か。これはぶっちゃけ醜くなければ拘りはないから自分の体型に少し見栄を張って筋肉を付けて…と、後はランダムで適当に見栄えの良過ぎず、清潔感のある…これでいいな、よし!こんなもんかな?そんでジョブ選びって言ってもここで選択できるのは3種類しかないんだよなぁ。って言っても何にするかは決めてるんだがな!)


 諦の思う通り、ジョブの選択と言ってもジョブが<発展する前>の3種類から選択する。自由度が高いのか低いのか分からない仕様になっているが、これはこのソウルオルターならではのシステムだ。


 ソウルオルターは自分のソウルを武器にして戦うゲームなので、それに適した種族で選んで伸ばす身体能力の方向性を決めなければならないため、キャラクタークリエイトの時点である程度は成長の方向性や戦い方を決めるゲームである。


 ソウルを形作るためにジョブを選び、どのような武器を扱うか決めることで成長するべき姿を認識するので、たった3種類といえど今後のプレイスタイルを決める重要な選択となっている。

 ただし、方向性を決めるだけであり、その攻撃方法しか出来ないと言うわけではない。

 例:弓を選ぶ=弓術しか出来ない。ではなく、弦で相手の首を締めたり、矢で相手を刺すことも出来るし、体術で蹴りを放つ専用のアクションも存在する。

 ここで決めるのはソウルを扱う上で、メインとなる攻撃方法を選ぶことであって、それ以外をしてはいけないと言うものではない。


(一々項目が決まる度に動きが遅くなるのはどうにかならないのか?まったく…えーっと、近距離攻撃主体なら【ブレイブ】で、中距離攻撃や支援の魔法系等なら【ウィザード】で、遠距離攻撃するのが【シューター】だったな。なら、俺が選ぶのは【シューター】っと武器は…)


 諦が【シューター】を選択したことで、多くの遠距離武器が目の前に現る。パチンコや投石器やブーメラン、弓やクロスボウ、レーザー光線と、原始的な武器から未来的な武器、と色々ある。中には【創造】と書かれた項目があるが、武器は決まっているのでそのまま目的の操作を行う。


(ブーメランとか玄人好みすぎだろ…それにしても、こんな風に武器が現れるって知らなかったから圧巻だな!まるでマトリッ○スの白い部屋で物資を揃えるシーンみたいだ。ん~やっぱり間接的な、遠距離武器なんかは無いのか?地雷とか武器で選べたらさぞ楽しかっただろうになぁ…出来ないことはわかってたけどな!【創造】で作れるかは分からんが、そんなのメイン武器にするつもりもないしなぁ…さて、あれはどこかなぁ~)


 諦がソウルオルターのプレイスタイルに思いを馳せながら目的の武器を探していく。


(お!あったあった。)


 諦が嬉々しながら見つけた武器を選択し、注意画面がポップする。


「おっ」


【※注意※ 遠距離攻撃は高度な技量を必要とする武器です。アクションが得意ではない方にはオススメ出来ません。本当にこの武器を選択しますか?】


(本当に出てきた…オンラインゲームなのにまるで難易度選択みたいな注意分だな…)


 諦が驚き、唖然としているのには事前にチェックしていた情報が元になっている。それは遠距離武器を選択したプレイヤーに対しての誹謗中傷である。


 ソウルオルターの非公式な雑談掲示板では「RPG初見ルナティックする人は他の人を巻き込まないでね^^;」「遠距離ジョブは魔法以外来るなよ!」「フレンドリーファイアは勘弁な」「攻撃当てられない、当ててもしょぼい寄生ジョブかよ」「飛び道具って威力も弱いんだろ?使えないわ」「お前らちょっといい方酷いぞ、PTに入れないだけに留めておけよ」「ステータスの補正ないのか?まじ遠距離ジョブってなんなんだろうな」「ってか遠距離ジョブって、他の2種には出ない注意文出るんだろ?よほど自信があるならともかく、遠距離で当てられないなら選ぶ意味ないだろ」と悪い部分が嘘か真か色濃く出ている。


 こういった言葉を、テスターは言っていないのだが、事実を元にしたプレイデータのレポートが未プレイプレイヤー達による悪意で、遠距離ジョブは不遇だから選ぶなと暗に知らせ、除外を図る動きが見られる。

 物理系統の武器は、フレンドリーファイア(味方に攻撃を当ててしまうこと)の原因となる。魔法はその限りではない。


 しかし、フレンドリーファイアと言っても、威力は大分落ちるので気にするレベルでは無いはずなのだが、未プレイ状態で作ってしまった流れはそんなことでは覆らないし知る由もない。

 こう言った妄想レベルの会話は、どんなゲームでも発生する物であり、ゲームを楽しむための一種の現象なので、無くすことも不可能だ。勿論悪いばかりではないが、オンラインゲームは人との関わりが非常に色濃く出るために無意識にもやり込みたいプレイヤーは不穏分子を排除する傾向にあるのだ。


 擁護をすれば、叩かれるし黙っていても悪い流れは変わらない。そのせいか、遠距離はただゲーム開始序盤の扱いが“不憫”ではあっても“不遇”ではないのだが、未プレイヤーの間では遠距離ジョブ=地雷という先入観が植え付けられていった。

 だが諦は、ゲームはゲームなので、自分で好きなこともできずに周りに流されて決めたくはないと感じており、我を押し通すことを決め、確かな決意を持って【はい】を選択した。


(例えほんとに迷惑掛けるならソロで楽しめばいいだけだしな!…ってほんとにロード長いな?オンラインゲームだぞ?最初だけだよな?)


 と、諦が今後の展開を不安に思いながらキャラクタークリエイトを終えて始まるのを待つ、突然ヘッドマウントディスプレイの画面が真っ暗になった…のではなく画面の風景がただ単に、暗くなった。


【ようこそ!ソウルオルターの世界へ!】


 それはボイスではなく、目の前に突然現れる文字だった。文字がぶつからないとわかるのに目の前に迫ってくる迫力に、諦の体が一瞬硬直して驚いてしまった。


(こ、これがVR!)


 大袈裟な驚き方をしている諦を尻目に、被っているヘッドマウントディスプレイの画面の中心から光が溢れていき、辺り一面を白く覆った。

 白い世界から段々と目が慣れていき、周囲は森林の中で有ることが伺える。見下ろすと画面がラグ無しで追いついていき、自分の体を認識できた。あまりのラグ無しの状況に先程まで抱いていた不安はVRの演出で吹き飛んでいた。


『ピッ♪』


 自分がソウルオルターの世界に来ていることを認識し始めたと同時に、この森林から異質な電子音が鳴る。そこには半透明のウィンドウが現れており、読みやすいメッセージが表示されている。

 アキラが忙しなく見渡しているのに対し、画面はブレること無くピッタリと追随してくる。


【貴方は、この世界で来訪者として訪れています。来訪者とは、意図せずに異世界に訪れてしまった人たちの総称です。貴方はこの世界で生きていき、自分の居た世界へ戻ることを目標に行動しましょう。】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る