第6話drei 2

「それでもダメなんです。目を閉じた時に事故に見せかける必要があるのです」



私の独り言に、あいつは真面目に答えた。



「ふっ・・・あはは・・・・馬鹿だねぇ・・・・」


どうしようもない失敗作。

私にはこの程度がお似合いって意味なんだ。


TVも何もつけていない部屋で私は一人で笑う。

こんなに笑ったのなんて数年ぶり。


あいつは無表情で私のことを見続けた。




「そういえば、さっき眠りながらこう言っていました。

役に立たない鉄屑は海に沈んでしまえばいい と。

それはどういう意味ですか?」



「そのままの意味。役に立たないのであれば、存在してるだけで邪魔だから海に飛び込めって事。

鉄屑は重たいから海の中に入れば自然と沈むし、電気で動いているから水の中に入れば一発でアウトでしょ」



それがアンタの自殺方法だ。



「なるほど。鉄屑の戦力が欠如した時にはそういう対処をすれば良いのですね」



こいつ自分が鉄屑って事をわかってるのか?




私が目を閉じなければ、こいつは殺さない。

起きている間はただ私を監視しているだけ。



今日もバイトに行く。

きっと帰ってきたら、こいつはまた無力な鉄屑と成り果てているのだろう。

目を閉じれば良いのだろうけど、生憎私は普通の人間よりも極端に睡眠時間が短く薬を飲まなければ眠れない。

私を殺せる時間は短いんだよ。


きっとあいつはまた無力な鉄屑として、玄関に転がっている。

・・・・・・・・・そう思っていたのに、予想は大きく外れあいつは玄関に座っていた。



「おかえりなさい」


「今日は充電切れてないの?」



座っているあいつの横を通り過ぎる。



「今朝ボクを充電してくれたのはママですか?」



は?何いってんのこいつ。


「他に誰がいるのよ。私とアンタしかこの家にはいないでしょ。

私がやる以外に誰がやるの?」



なんか相手するのも嫌になってくる。



「ママは お母さん ですか?」


・・・・・・・・。

こいつの世界観は訳がわからない。



「そうよ。ママはお母さんの別の呼び方。

お母さんの事をママって呼ぶ人も居るし、ママの事をお母さんって呼ぶ人もいる。

それが何?アンタは何なの?いい加減黙ってよ!!!」


怒鳴る必要もなかったのにね。

今日はムシの居所が悪かったのかも。



あいつはそれ以来黙って私の事を見つめ続けた。

私は気にせず、パソコンに向かう。



パソコンで何かやりたい訳じゃないけど、やる事がないからなんとなくパソコンをイジってしまう。

今から何かを始めようにも、どうせすぐに死ぬ運命。

始める意味なんてないよね。

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