第4話zwei 2
カーテンの隙間から明るい光が差してきた頃。
あの 物 は動き始めた。
「・・・・・・・・初めまして。ボクの名前は にひと です」
「・・・・・・・・・・・・」
その物は自己紹介をすると、ゆっくり立ち上がり充電器セットを片付け始めた。
充電器を自分で片付けるという行為は知っているみたい。
私はチラっと横目でそれを確認すると、またパソコンに視線を戻す。
「初めまして。ボクの名前は にひと です」
物はまた自己紹介をする。
それを聞くのは2度目だ。
お前の名前が にひと だという事はもうわかっている。
「初めまして。ボクの名前は にひと です」
「初めまして。ボクの名前は にひと です」
同じ言葉を何度も繰り返す。
名前を呼べば良いのだろうか。
「アンタの名前はにひとね。もうわかったからおとなしくして」
私宛に完璧な物なんて、あの人が贈るはずはないか。
私に送られるのは役立たずなポンコツかゴミだけ。
出来損ないな私にはそれがよくお似合い。
「あなたの名前は何ですか?」
「あなたの名前は何ですか?」
1つの質問が終われば次の質問。
それに答えるまで、同じ言葉を何度も繰り返す。
「うるさいなー。私の名前は・・・・・・・・ママ。
アンタのママよ」
名前は教えたくなかった。
苗字は呼ばれることがあっても、高校を卒業してから耳にすることもなかったし、なんだか照れくさい。
「ママ?あなたの名前は ママ ですか?」
「そう。私の名前はママ。ママって呼んで。
私は今忙しくて構う暇がないから、アンタはおとなしく自分の任務を遂行して」
「ボクの任務・・・・・・・・わかりました。
ボクはボクの任務を遂行します」
そう言うと、にひとは私から少し離れた位置に座り込むと、無言のままこちらをまっすぐ見始めた。
最初は気になっていたけど、所詮コイツは鉄屑。
その視線も気にならなくなる。
結局にひとは何も行動する事がないまま、私はバイトに行く準備をし始めた。
・・・・・・・・・結局今日は一睡も出来なかったな。
私が立ち上がりあたふた行動をするとにひともスクっと立ち上がる。
「どこへ行くのですか?」
「バイト。バイト先には来たらだめよ。遊びじゃないんだから、家で待ってて」
「わかりました」
そういうとにひとに見送られながら家を出る。
あいつは何の目的でこの家に送り込まれてきたのだろうか。
バイト先までついて来ない事を見ると、ボディーガードって訳でもなさそうだし。
留守番させる為だけの存在?
それだけをさせる為に、あの人が高い研究費をかけて作る訳じゃない。
私を殺す事を目的としたのなら、隙なんていくらでもあっただろうに。
今日もバイトが始まる。
週6日働いてるカラオケ屋。
もう浪人してるのか?フリーターなのか?自分でもよくわからない。
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