漁師学校にぶち込まれても魚嫌いだけはゼッタイに治さないからな!
椎鳴津雲
プロローグ 海鮮大盛女体盛り
アレルギーとは関係なく、大概の人には生理的受け付けないモノが存在する。
食べ物だったり、動物だったり、昆虫だったり、なんだったり。
そして俺はなんと言っても魚が大ッ嫌い嫌いだ。色も形もすべてが嫌い。
正直あんな得体のしれないモノを食べる人間の気が知れない。
頭がおかしいのではないかと疑ってしまう。
刺身、マグロの竜田揚げ、魚肉ソーセージ。形へと姿を変えようと魚は魚だ。
マグロなんて名前にグロと入っている。まさにグロ、略してマグロだな。
川で泳ぐブラックバスなんて想像しただけで吐き気がする。小さな口元――
「うっ……気持ち悪くなってきた……」
想像したくないと思えば思うほど想像してしまう。俺はこの思考が嫌いだよ。
それにしても、なんで俺の視界はさっきから真っ暗なんだ?
それになんだか俺の嫌いな音楽が頭の中で鳴り響いている。
『サカナ サカナ サカナ サカナを食べると♪ アタマ アタマ アタマ アタマが良くなる♪』
不愉快だ。音楽を止めようと思っても視界が暗いので俺は何もできない。
抗うことができずに耳を澄ませていると、音楽が切り替わった。
『
いやどれが本当なんだよ。正解が多すぎるだろ。なんなんだこの音楽は?
つーか、なんだか寒くないか? まるで冷凍庫にいるような感覚だ。
「……ガクガク……ブルブル……」
体が小刻みに震えているのが分かる。
これはもしかしてガチでいるのではないだろうか??
ガチで俺は全裸の状態で冷凍庫にいるのではないだろうか。
眼が見えない分、他の五感が研ぎ澄まされている。
俺は椅子に座らされている。後方で縛られた手首。
うん。間違いない。俺は大きな冷蔵庫に閉じ込められている。
「まさか……ここは冷凍マグロの保管庫なのか……?」
「ご名答」
「!?」
「よく分かったわね。さて、ここからが本題よ。さぁ、クイズ」
女の子の声が耳元で聞こえた。つまり、この空間には誰かいる。
そしておそらくその人物こそ、この俺を閉じ込めている張本人。
「お前はいったい何者なんだ! 俺をどうするつもりだ!!」
「さぁ、問題です」
「人の質問に答えろよ!」
「この問題に正解すればご褒美をあげる。失敗すればここで殺すわ」
「……え?」
「失敗すればここで殺すわ」
「……」
「クイズに失敗すれば殺すわ」
「聞こえているっつーの!」
大事なことなので三回言われた。……えっとー。んー……ん?
彼女の言葉が頭の中で何度も再生される。殺す。殺す? 殺すか。
「って、えぇえええええええ!? 不正解した時の代償が大きすぎるだろ!? なんで俺が殺されなきゃいけないんだよ!!」
「それでは問題」
「人の話を聞けよ!!」
「問題です」
俺に選ぶ権利はなく、謎の女性のクイズを続ける。従うしかないのか。
どんなクイズが来るか一切分からない。あまりにも理不尽だ。
失敗すれば殺されるとか、やくざ者の映画じゃねーんだから……。
だが、俺は人並みにクイズは好きだ。きっと正解できるはず。
「問題:オス
「知るかぁああああああああ!」
つい大声でツッコミを入れた。あんな海のスライムに違いなんてあるのかよ。
あるわけがないだろ。こんな問題、答えられる訳がない。
「知らないの? じゃあ、このまま終わりにする? 死ぬ覚悟はできた?」
「いや、待ってくれ」
そうだ。これは俺の命を懸けた問題なんだった。うかつな行動は厳禁だな。
冷静に考えろ。タコのことではなく、ここから逃げ出す方法をだ。
作戦を考える時間がほしい。適当なことを言って時間を稼ごう。
「なぁ、誰かは知らないが、これは少し不公平だとは思わないか? こっちは命がかかってんだ。何かヒント的な物はないのか?」
「あるわよ」
「あるの?」
「あるわ。アナタの太ももの上に蛸が乗ってるわ」
「!?」
まさか、さっきから股間あたりでヌメヌメしていた物体って――タコ!?
俺、気絶してもいいでしょうか? よく頑張ったと思うんだよね。
意味の分からない冷凍庫に入れられ、縛られ、タコを太ももに置かれ……。
「5、4、3、2――」
「待て! 待ってくれ! 考える時間をくれ」
考えろ。これはクイズなんだ。きっとなぞなぞ的な要素があるはずだ。
相手はヒントをくれるような心のどこかに良心がある人物。
なら、きっとこの目隠しにも何かしらのヒントがあるのではないだろうか。
目隠し、ヒント、タコの見分け方。そうか――分かったぞ!!
「臭いだ! オス蛸とメス蛸を判別する方法は臭い!」
「……」
「どうだ、正解か?」
「残念だけれど。ハズレよ」
「!?」
「さぁ、死んで」
「待てぇええええええええええ!」
俺はまだ死にたくない。頭をフル回転させて生きるすべを探した。
「あ、そうだ! お前は回答権が一回とは一言も言っていないだろ」
「ふむ。確かにそうね。じゃあ、もう一回ハズしたら殺すってことでいい?」
「あぁ、それでいい」
よかったー。これで時間が稼げる。まずは腕の拘束をどうにかしないとな。
「ねぇ、お困りの様だから特別に超特大ヒントをあげるわ。蛸には八本の足があるのよ」
「それは知っている」
「でもね、オスの場合、吸盤が付いている足は6本しかないの。なぜだと思う?」
「知らん」
「8本中2本は生殖器と言われているからよ」
「へぇー」
「さぁ、問題です。蛸のメスとオスを見分ける方法はなんでしょう?」
ほとんど答えを言っているようなものだ。これで俺は生きることができる。
「吸盤がついてる足の数か?」
「正解よ。よかったわ。アナタを殺さずに済んだもの。さて、正解したアナタにはとびっきりのご褒美をあげないとね」
「ご褒美か」
彼女は俺の顔に巻かれていた目隠しへと手を伸ばす。冷たい指先が触れた。
ゆっくりととられていく目隠し……。そして――うん。俺は絶句する。
ここは間違いなく冷凍庫だ。周囲につるされていたのは冷凍マグロ。
冷凍庫の温度をたぶんマイナス60度くらいだ。そんな中、俺は全裸である。
「……」
「さぁ、ご褒美よ。思う存分食べなさい」
「……」
椅子に腰かける俺の目の前にはテーブルが置かれていた。
その上にはマグロのように仰向けになる全裸の女性の姿が見える。
女性の裸体の上には刺身が綺麗に揉みつけられていた。
「どうしてワシがこんなことを……」
「な……なんじゃこらぁああああああああああああああああ!?」
逃げようとしたが、俺の手足はいまだに椅子に縛り付けられていた。
「喜びなさい。これぞご褒美である海鮮大盛女体盛りよ」
「やめろ! なんで刺身がこんなに近くにあるんだよ! 俺は魚が嫌いなんだよ!」
「なるほど。束縛されているので一人では食べられないと言いたいのね」
「そんなこと一言も言ってねーだろ!?」
謎の女性は箸と取り、二人目の女性の上に盛り付けられた刺身を掴む。
無気力なマグロ女性のおへその上に置かれた醤油皿に刺身を付ける。
マグロ保管庫で全裸になる人たち。しかも女体盛り……。
異常だ。
これは異常以外の何物でもない。すべての異常がここには存在する。
「ヤメロ! 俺は食べないからな! 死んでも刺身は食べないからな!!」
「安心しなさい。この子の体はしっかりとアルコール洗浄済みだから」
「そういう問題ではなぁああああああい!!」
「刺身を怖がらないで、魚はアナタを攻撃なんてしない。受け入れなさい――魚を」
「うぐっ。うぐぐぐぐっ!!」
刺身が掴まれた箸が徐々に俺の口へと近づいてくる。やめろ、やめるんだ。
「はい。あぁ~ん」
「……それ以上近づけるな……このままでは」
口を力強く閉ざす。このまま口を閉じていれば俺の勝ちだ。
「……」
あ、無理だ。
魚が俺の頬に触れた瞬間、俺は我を忘れた。
全身に蕁麻疹ができる。そして叫んだ。
「ギョギョギョ!? ギョッッッエェエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
身体から放たれた拒絶の光が全方向へ放たれる。その光が全てを消した。
もしかして今の光景は全部、夢だったのか? はぁ、夢で良かった。
なんていうか最悪な夢だったな。今まで見てきた中で最悪な悪夢だ。
どうせ夢を見るなら、お菓子や野菜の夢が見たかったな。
魚のことを嫌えば嫌うほど意識してしまう。俺は恋い焦がれるJKかよ。
まっ、今の夢が正夢にならないことを強く祈ろう。女体盛りダメ絶対。
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