不幸ご飯をたべれば最高に幸せ!

ちびまるフォイ

結婚詐欺 … 480円 ←わりと高い。

「いらっしゃいませーー」


ふらりと立ち寄った定食屋。

メニューはタブレットで変わった名前が並んでいる。


・結婚詐欺 …480円

・痴漢にあった …200円

・不倫がバレる …500円


※ごはんのおかわりは自由となっています。


「なんかすごい名前だな……」


「お客様、ご注文はお決まりですか?」


「あの、なんでタブレットなんですか?」


「メニューの内容は頻繁に変わるのでこっちのが楽なんですよ」


「えと、じゃあ結婚詐欺をください」

「かしこまりました」


数分後、ご飯とおかずが運ばれてきた。

おかずの皿には紙が載せられているだけだった。


「紙でご飯食べろってのか!?」


「こちらは食べれる紙でございます」


「そういう問題じゃな――い!!」


文句はいったものの箸でちぎって食べてみるとごはんが欲しくなる。

気が付けば、最高のごはんのおかずになっていた。


「うん! うん! おいしい! すごく幸福な気持ちになる!」


「この店は"不幸ごはん"です。

 誰かの不幸をおかずとして提供しているんですよ」


「へぇ、ほめられたものじゃないが……おかわり!!」


おいしいのはもちろん、なにより食べていると幸福な気持ちになる。

箸を進めるたびに頭には、結婚詐欺に引っかかった人の情報が流れる。


お腹がいっぱいになると、満腹感と幸福感につつまれた。


「ありがとうございました、またのご利用をお待ちしています」


「いやぁ、不幸がこんなにもごはんに合うとは思わなかった」


気が付くと、俺はこの店に通い詰めるようになった。

毎日メニューが違うので飽きがくることはない。

不幸のバリエーションは豊かだった。


食事を終えた帰りだった。


「ひえ、すっかり遅くなっちゃったな」


街灯の少ない道を歩いていると若い男たちがぞろぞろと俺を囲んだ。


「な、なんだ君たちは!」


「おっさん。未来ある若者に寄付をおねがしゃーす」


「恐喝か!? け、警察をよぶぞ!」


「あっそ。これでも呼べるかな!!」


若者の持っていた金属バットが腕に振るわれた。そこからは痛みしか覚えていない。

気が付くと財布の金は抜かれ、路上にボコボコにされた俺が転がっていた。


「く、くそ……誰も見てなくてよかった……」



ケガも治ったころ、また不幸ご飯にやってきた。


「今日はえらく混んでますね」


「ええ、新メニューがすごく好評なんですよ」


「さてと、今日のメニューは……」



・ボコボコにされる中年 …500円 New!



「……え?」


まさか、と思った。

おそるおそる注文し口に運んだ瞬間、あのときの記憶がよみがえった。

間違いない。これは俺の不幸じゃないか。


周りを見渡すと、みな俺の不幸でごはんを食べている。

俺が必死に抵抗してボコボコにされた様子を笑いながら。


「やめろ!! 食べるんじゃない!!

 人の不幸をおかずにするなんて性格悪すぎるぞ!!」


「は? お前だって食べてるじゃないか」


「いいから食べるのをやめろ!!」


他の客の皿を奪い取ろうとすると、店員が羽交い絞めで止めにかかった。


「お客様! 落ち着いてください! ほかのお客様に迷惑です!」


「知るか!! こいつら俺の不幸を楽しんでやがる!!

 どんなに悔しくてみじめで苦しかったかも想像しないで!!」


店員をふりほどくと厨房へと走った。

厨房では不幸を紙に書いて調理している真っ最中だった。


「お客様、いったいなにを!?」


「こんなの……全部ハッピーエンドに変えてやる!!」


紙には不幸の出来事が書かれていたが、俺は末尾に書き加えた。



――けれど、その後は幸せになりました。めでたしめでたし。



と。


「これでなにもかもハッピーエンドだ!」


誰かの不幸を笑いながら食べるなんてやっぱり異常だ。

でも、誰かの幸せになった話ならいろんな人に食べてもらいたい。


「最初からこうしておけばよかったんだ」


客がいなくなったあとで俺は自分の書き換えた幸福おかずを注文した。

口に運ぶと、幸福が……。


「うっ……なんだこれ」


おいしくなかった。というか、味が薄い。

幸福な話はどうしてこんなにも薄味なんだ。

これじゃ寺で修業しているお坊さんだって顔をしかめる。


たまらずテーブルにあった調味料を振りかけた。


「おっ、すごくおいしくなった。ああ、よかった」


ふりかけた調味料が気になった。


「店員さん、この調味料ってなんですか?」


「ああ、これは"ニュース"っていうものですよ」


「へぇ、聴いたことないな」



「毎日かわるがわる伝えられる人の不幸を調味料にしたものです。

 どうです? ごはんが進むでしょう?」



「はい。やっぱり不幸を食べないと幸福になれないですね」



調味料:ニュースからは今日も誰かの不幸が頭に流れてくる。

不幸を食べていると、やっぱり幸福な気持ちになっていった。ふしぎ。

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