友人の実態③(小田渕丈一郎と豊島理奈)

 次は順番的に小田渕だが、彼は既にある程度の紹介は受けているので省くことになり、最後の豊島になった。

 だが、腕を組み天井を見つめながらレイは中々話し出さない。目を瞑り、首を何度も横に振って何かを考えているようだ。

 おい、まさか……豊島はさらに知られざる一面を持っているというのか?

 これまでの各自の一面ですら頭を鈍器で殴られたような衝撃的であったのだが、このレイの様子を見るとさらに上回る内容のようだ。

 よく分からない汗を背中に感じながら、俺は正座をして身構える。心の準備をしているかしていないかで受けきれるかも変わってくるはず。緊張に似た鼓動を心臓が奏でる。

 そして、レイがようやく口を開いた。

『理奈はね……』

「……ゴクッ」

『……特にないわね』

「……」

 特にないんかーい!

「おい、何もないなら今の間は何だったんだ」

『いや、なんかあったかな~、って思い出そうとしたんだけど、何もなかったのよ』

「いやいや、今まで全員マイナスの面とか言ってたろ。豊島だってあるだろ」 

『だからないんだってば。今日の理奈が普段の理奈なのよ。常に自分をさらけ出してるから』

 最後の最後でこのオチ。何だろうこの感覚。ボスが強くて必死にレベル上げをしたのに、再度挑んだらあっくなく倒してまったゲームのような感じ。虚しさというか、無に包まれるというか。

『あ、でも一個あったな』

 何かを思い出したのか、ポン、と手を叩いた。

「それは?」

『たまにいきなり行動する事がある。何かを思い付いたら、それを後先考えずにやっちゃうの。自分でも言ってたけど、座右の銘は「思い立ったらすぐ行動」だって』

 活発な行動派に見える豊島らしさだ。明るい性格を有効に活用している。

 現代ではあらゆるものが電子化し、その発展は目を見張るものがある。一個新しい物が出ても、一年満たない間にさらに高性能の物が開発、販売されていく。数年前なら考えられないスピードだ。それだけ日本が成長している証拠でもある。

 どんどん新しい物が世に出て、人はそれに飛び付いていく。獲物を見つけて襲いかかる、まさにハイエナの様だ。

「待てよ? 後先考えずにやる、って事は、失敗もあるんじゃないか?」

『お察しの通り。時々、失敗してたわ』

「例えば?」

『そうね……ある時、ゼミの女子で集まって寛いでいたんだけど、突然理奈が「水族館へ行こう!」って言い出したのよ。何で? って聞いたら、調度テレビのCMで水族館の映像が流れてて、それを見て行きたい、って』

 そりゃまた唐突だな。というか子供か。

『さすがにすぐには行けなかったし、私達もその時お金が無かったから無理、って言ったんだけど、理奈は「じゃあ一人で行ってきます!」って飛び出したわ』

 本当に思い立ったらすぐ行動だな。中々いないぞ、そういう人。

「んで、どうなったんだ?」

『夜には帰ってきたわ』

「なるほど。楽しんできた、と」

『楽しめるわけないじゃない。まだオープンしてないのに』

 ……何?

『行ってきたはいいけど、そこの水族館の開館は来月だったのよ。魚も見れず、ただ準備中の建物を見てきただけで帰ってきたわ。メッチャしょんぼりしてたな~』

「しょんぼりしてたな~、じゃねぇよ! 教えてやれよ!」

『いやいや、どこの水族館だか知らなかったんだから教えられないでしょ。CMだって誰も見てなかったし、理奈が帰ってきて初めて行き先知ったんだから』

 CMではきちんとオープンの日にちを掲示していたようだが、そこまではよく見ずに行ったらしい。行動派が失敗するパターン中のパターンだ。

『あと、体重が気になってダイエットをしたいと言い出した時もあったわ』

「やべーやつじゃねぇか。一番危険な思い付きだ」

『まあ、そこは同じ女子としては気持ちは分かったからね。皆で色々相談には乗ったわ』

「どんな?」

『最初、理奈はジムやらに通うとか言ってたんだけど、それはお金が掛かるから止めたわ。自分で手軽に出来るのがあるって薦めたのがあるの』

「それは?」

『蕎麦ダイエット』

「蕎麦?」

『蕎麦はカロリーが低いからね。お腹一杯食べても体重は増えない、って言ったの。そんで、理奈はそれを始めたわ』

 なるほど。低カロリー食品で脂肪を減らす。誰もが考え付きそうな発想だ。

「んで、結果は?」

『途中で倒れた』

 倒れた!?

『理奈ったら、三食蕎麦で毎日を過ごしてたらしいのよ。そのせいで栄養失調になって、学校で倒れて病院に運ばれたわ』

 豊島ぁぁぁ! 途中で気付けぇぇぇ!

『それからは体重は気にせず、普通の生活に戻ったわ』

「豊島も豊島だが、それを薦めたレイ達も酷くねぇか?」

『いや、まあ……本当に効果があるのか分からなかったし、自分がやる前に……あっ』

「おい、ちょっと待て。今なんつった?」

『いや、その~』

「てめぇら豊島を使って実験したんか!」

 確信犯だ! 警察を呼べ!

『だ、だって、私達も体重は気になっていたし、蕎麦ダイエットは効果あるのか不安だったし。それに、理奈は元気だから大丈夫かな~、って思って……』

 指をツンツン、と合わせて目を反らすレイ。珍しく小さくなっている。

「だったら自分でやれや! 何友達で効果見ようとしてんだよ! 今すぐ豊島に謝ってこい!」

『あ、謝ったわよ散々! あれから皆で理奈にご飯ご馳走したんだから!』

「何日だ?」

『えっ?』

「豊島のダイエットは何日続いた?」

『え~と、一週間?』

「お前らの奢りは?」

『い、一日……』

 割りに合わねぇじゃねぇか! 残りの六日も食わせろや!

「ひっでぇ~な、お前ら」

『うう……それは今でも悪いって思ってる』

 本心なのだろう。いつになくレイは辛そうに下に顔を向けている。

「まあいい。今はそれについて責める時じゃないしな。問題なのは事件の方だ」

 俺の一言で雰囲気はガラリと変わる。レイも顔を上げ、真剣な表情だ。

 これで全員の性格を知る事が出来ただろう。予想外な性格を持っていたレイのゼミの仲間達。果たして、ここに事件の鍵が隠されているのだろうか。

 一息付くため、俺はコーヒーを一口飲む。温かった。

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