旅の始まり② 〜ワーム討伐戦〜
「ねぇレオほんとにこれがワームなの?」
ステラの声は少し震えていた。
「ああ残念ながらそうだ」
レオはそんなステラの震えた声に同情しつつも肯定した。
「レオの言葉で想像した感じもうちょっとマシな感じがしたんだけど……」
「いや年頃の娘がそんな感覚なのはどうなんだと思うぞ俺は……」
レオはステラをたしなめつつも目の前のワームを見た。
目の前のワームは顔がないからわからないが眠っているのか身動き1つとらない。
「厄介だな」
レオはおもむろに呟いた。
「え? どういうこ……」
ステラはレオの言葉の真意を聞こうとしたがそれは途中で遮られた。理由は単純目の前のワームが動き始めたのだ。
「ステラ、とりあえず下がるぞ」
レオはそれだけ言うとワームとは反対方向を向き走り出した。
「え? レオちょっと待って!!」
突然走り始めたレオに置いてかれまいとステラも反転して走り出した。
そしてワームから80メートル程距離をとりレオは立ち止まった。
ステラもレオに追いつき少し息を切らしながらも徐々に息を整えた。
ワームはというと動き出したがまだ寝起きなのかすぐまた動きを止めてしまった。
「ねぇレオさっきの厄介ってのはどういう意味なの?」
ステラはレオを問い詰めた。
「あーあんまり言いたくないんだよな〜」
レオははぐらかすように明後日の方向を向いた。
「なら私にも考えがあるわ」
ステラはそう言うとワームのがいる方向を向いた。
「言わないなら今からあの魔獣に突っ込むわよ!!」
とあまりにも無鉄砲すぎる発言にレオはステラを可哀想な子を見る目で見ていた。
「な、なによ。そんなアホな子を見るような目で見ないでよ!!」
ステラはそう文句を言うがレオはその目をやめることはしなかった。
「ほんとに行くわよ」
ステラはついに耐えきれずワームの方へ向かって走り出そうとしたがレオが慌てて止めた。
「まぁ待て待て話すからちゃんと話すからそんな馬鹿なことをしないでくれ」
レオの必死の懇願でステラは足を止めた。
「で? どうして厄介なの?」
ステラは少し怒った様子でレオを問い詰めた。
「あのワームって魔獣は成長の段階で討伐の仕方が変わるんだよ」
「えーと、どういうこと?」
ステラは厄介って言葉と討伐の仕方が変わるというのが結びつかず頭に?マークが浮かんでいるようにみえた。
「まぁちゃんと説明するとあのワームは7メートル未満は虫でいう幼虫、7メートル以上は成虫っていう分類がされるんだ」
レオはそう言うと一度ワームの方をみた。
ワームはまた動き出す気配はなかった。
レオは話を続けた。
「で、幼虫と成虫で討伐の仕方が変わる。ここまでは大丈夫か?」
レオの問いかけにステラは頷いた。それを確認してまた話を続けた。
「まず幼虫は簡単だ。どんな距離でもいいとりあえず叩っ斬るそれだけだ。」
レオは単純にそう言い切った。
「え? それだけ?」
ステラが思わず聞き返すが
「ああそれだけだ」
とレオは肯定して話を次に進めた。
「問題は成虫の場合だ。ワームの成虫は特殊な分泌液を体内で作るんだ」
レオの話にステラは思わず唾を飲み込んだ。
「で、その分泌液ってのは何?」
ステラは急かすようにそう聞いた。
「催淫効果のある分泌液。まぁ“媚薬”だな。」
一瞬時が止まったように感じた。
そしてステラが顔は真っ赤に染まった。
「お前熟れたトマ「うるさいうるさい!!何よ媚薬って!!」
レオの突っ込みを遮るようにステラは叫んだ。
「じゃあ何レオ、その媚薬が怖いからあいつに近づけないってこと?」
ステラはあくまで冷静を装うが顔はまだ真っ赤である。
「まぁそういうことだ。だけどステラ、媚薬だからってナメないほうがいいぞ。あれの原液にかかるとあまりにも効果が強くて1時間程で狂死するらしいぞ。」
「え? 狂死?」
「ああだからたまに市場とかで売ってたり拷問とかで使われたりするけど大体は原液を20倍以上薄めたものなんだよな。」
レオがそう言い終えるとまたなんとも言えない無言の空気が流れた。
「まぁそういうことだから成虫は近距離戦闘での討伐は推奨されないんだよ」
「へ、へぇーそーなのね」
このなんとも居た堪れない空気を瓦解するためレオは必死で話を変えステラは話に乗ることにした。
「あれ? でもレオの話だと成虫は7メートルを越してからよね?確かあの村の人の話だと5メートル級って言ってなかったっけ?」
ステラはふと思い出したようにレオに尋ねる。
「あの村人が言ったのは本当のことだろうがもうあの状態に入ったみたいだから迂闊に攻撃できねぇんだよ」
レオは忌々しそうにワームを見る。
「え? できないってどういうこと?」
レオはステラに向き直り説明した。
「さっきワームってのは7メートル未満は幼虫って言っただろ。その幼虫の部分に補足が入るんだが何かわかるか?」
ステラは首を傾げて考えるが答えはすぐにはでない様子だ。
レオもわかっていてかステラの答えを待たずに話を続ける。
「答えは眠るんだよ。これに関して例えるなら芋虫の成長でいうサナギみたいなもんだな。まぁワームの場合は芋虫のように殻に閉じこもることはしないんだが、そういう訳だ。今俺たちが討伐しようとしてるワームはサナギの状態なんだがさっき動いたみたいだから成虫になるまでもうそんな時間がかからない。だから近接戦闘はもうできないんだ」
レオの説明でステラは完全に納得したみたいでうんうんと頷いている。そして納得したということは今この状況が限りなく危険だということも理解してしまった。
「ねぇレオ、もしあのワームが成虫になった場合最初に何をするの?」
ステラはある予想をしていた。そしてその予想が当たらないことを祈りながらおずおずとレオに聞いた。
「そんな聞き方をするってことは大体の予想はついてんだろ? その通りだよ。起きたばっかの生物ってのはどういう訳か腹を空かしてる、だからやることは単純。捕食だ」
ステラはその答えを聞いて自分の足下が崩れていくような錯覚をした。
そして数秒後自分が混乱しているという自覚をすると大きく深呼吸をして混乱した意識を整えた。
「大丈夫かステラ?」
心配そうな顔をしてるレオに大丈夫とジェスチャーで伝え、自分が何とかしなければならないと悟った。
「レオ。どうすればあれを討伐できるの?」
自分の旅の同行者、元傭兵レオナード・アインテイルならこの状況をどうにかできると信じて聞いた。
「なーにそこまで切羽詰まった状態じゃねぇよ今は。ま、討伐するなら今のうちの方がいいがな」
レオはそう勿体ぶる。そんなレオの様子に少し怒りを感じつつもなんとかできると聞いて安心した。
「てな訳でステラ『星剣』貸してくんね?」
「………………は?」
ステラは元姫らしからぬアホ面になっていた。
「いや、だから『星剣』を貸して欲しいって言ったんだよ」
「いやいや二度も言われなくてもわかってるわよ!! そういうことじゃなくて自分が何を貸して欲しいって言ってるかわかってるの? 『星剣』は一応ライナード王国の国宝よ。こ・く・ほ・う」
ステラはアホ面を一転、今度は凄い剣幕でレオを怒鳴る。
「わかってるっての、けど実際俺らがあのワームを討伐する方法はお前の『星剣』ぐらいしかないぞ」
レオの言い分は最もだった。
そもそもレオは武器という武器を一切持ってきておらず戦闘になった場合ステラの
そんな訳で当然遠距離用の武器など持っていなかった。
ステラ自身も自分の
「しょーがない。わかったわよ。で、どれを出せばいいの?」
ステラはため息をつき一種の諦めとともに『星剣』を使うことにした。
「確か俺とお前が3回目に戦った時に使ってた斬撃を飛ばす大剣を出してくれこの距離から攻撃を届かせるのしたらあれが一番いいだろ」
「え? 何言ってるのレオ、流石に斬撃を飛ばしたとしてもこの距離は無理よ。あの剣は距離があればあるほど威力が落ちるし、私が最高で飛ばせたのは30メートルよ」
ステラはそう反論するがレオはそんな反論を聞き流していた。
「別に問題ねぇよステラ。何か勘違いしてるみたいだけどあのワームを斬るのはステラじゃなくて俺だ。さっきから言ってるだろ貸して欲しいって。」
「……………は?」
ステラはさっきのようなアホ面ではなくこの人何言ってんの? っていう同情や哀れみ蔑みなどがごっちゃになった顔になっていた。
「いやいたって真面目に発言してるのにそんな顔をされるのは心外なんだが………」
レオはステラの表情に納得がいかず不満を言うが
「いやレオ、あなた自分が言ってることを理解してる?私の持つ『星剣』は私の国の国宝なの。そして国宝って言うのは誰でも使える訳じゃないからそういう風に呼ばれてるの。なのにそれを貸せ?使えない人にわざわざ貸す必要なんてないじゃない!!」
ステラが言っていることはもっともだ。
ステラ自身その『星剣』選ばれてしまったことによってまだ10代だったのに戦場にでる運命を背負っていたのだ。
他の誰もが『星剣』を使うことが出来ないから。
だがレオはそれを貸せと言うのだ。自分だけしか使えないはずの剣を貸せと言うのだ。
「あーまぁそりゃそーだな自分しか使えないはずの剣を貸せって言われてハイそうですかって貸す奴はいないわな」
レオはそんな独り言をこぼすと頭を掻いた。
そんな2人が口論をしているうちに80メートル先の魔獣に動きがあった。
ワームはそのミミズのような身体をもぞもぞと動かししばらくして頭の部分を起き上がらせ何かを探すように触手のついた口の部分で辺りを見回した。
「時間がないな。ステラ、認めたくはないだろうが俺はお前の『星剣』を使うことができる。だから貸してくれ。」
レオはそれだけ言うとステラの方に手を出した。
ステラはまだ迷っているようでワームとレオを交互に見ている。
そしてワームは何かを見つけたのか一瞬見回していた頭の動きを止めた。
そんなワームの動き見てステラは決心した。
「わかった、レオを信じるわ。だからお願いあの魔獣をちゃんと討伐して村の人たちを襲わせないようにして!!」
ステラはそう言うと頭上に手を掲げた。
「我はこの大空に輝く星の英雄と契約した者。星は我と在り我は星と在る」
ステラが詠唱を始めるとステラの髪があの戦争の時のように美しい金色から鮮やかな血のように紅く紅く染まっていく。
「今日我が示す力は獅子、勇敢な獅子の力」
ステラの髪が紅く染まると次はステラの掲げた手の先から魔方陣が組み上げられていく。
「勇敢なる獅子よ我にその力を貸し母なる大地に蔓延る悪意を蹂躙せよ!!」
ステラの詠唱が終わるとともにステラの頭上の魔方陣が輝いた。
そして組み上げられた魔方陣の中心から一振りの大剣がゆっくりと現れた。
ステラはその現れた大剣の柄を握ると魔方陣から一気に引き抜いた。
現れた大剣は太陽のような眩しい光を纏っていたがしばらくしてその光がやんだ。
「なんて言うか久しぶりにその姿を見たけどやっぱり綺麗だな」
レオは本心からそう思い言葉にした。
そんな言葉をいきなり言われたステラはみるみると顔をその髪色と同じように紅く染めた。
「じゃあ貸してくれステラ。」
レオはステラから剣を借りようと手を差し出した。
ステラは顔をぶんぶんと振り紅く染まった頬を冷ましレオにおずおずとその手に持った大剣を渡した。
レオはその大剣の受け取ろうとした時大剣がまた光を発した。
「やっぱり私以外が触ろうとするから拒絶反応が!!」
ステラは渡そうとした大剣を引き戻そうとするがレオが大剣を掴んだ。
「レオ、離して!! 拒絶反応が起きてるの!!このままじゃ………」
ステラの言葉は続かなかった。
なぜならレオに掴まれた大剣が発していた光を急に収束させていったからだ。
「うそ……なんで…………?」
ステラはこの現象に驚きを禁じ得なかった。
「な、言っただろ俺を信じろって」
レオは笑みを浮かべながら大剣を担いだ。
「さぁてと、ワームも起きちまったことで時間がない訳だしちゃっちゃと終わらすか!!」
その笑みは獰猛な野獣のような笑みだった。
「ステラ、この剣の名前はなんていうんだ?」
「え?名前? 確か………ふふっ」
ステラは急に笑った。
「おいおい何いきなり笑ってんだよ。少し怖いぞ」
「いや、だってこれは笑っちゃうわよ。その剣の名前は“獅子宮・レオ”あなたと同じ名前だもの」
レオはそれを聞きキョトンとしたが少しして笑い出した。
その笑いは先程のような獰猛な野獣のような笑いではなく人間らしい笑いだった。
「確かにそれは笑えちまうな。んじゃ早速力を見せて貰うぜ
レオが
その瞬間その場の空気が一変し急激な圧迫感が押し寄せる。
ステラはその圧迫感に顔をしかめるがレオは涼しげな顔で一歩踏み出す。
「いくぜレオ!!」
レオは手に持つ大剣は横に一閃振るう。
そしてその一閃で十分だった。
レオが振るった大剣の斬撃はステラが限界と言っていた30メートルをゆうに超え80メートル先にいたワームを真っ二つに斬り裂いた。
それを目視で確認したレオは何か呟いた。
そしてその呟きと共にその場を襲っていた圧迫感が全くと言っていいほどなくなった。
「大丈夫かステラ? 久しぶりだから少し加減を間違えたみたいだな」
レオはステラの顔を見て自分の失敗に気づいた。
そしてステラから借りていた大剣を返した。
ステラはその大剣をすぐに光の粒子へ変えて自分はもう耐え切れなかったのか地面に膝をついた。
ステラの髪は獅子宮・レオを戻したことによって真紅から元の金色に戻った。
レオはそんなステラの髪をくしゃくしゃになるほど撫で「よく頑張ったな。」と一言伝える。
ステラが顔を上げるとレオが優しい笑みを自分に向けているそれがなんだか嬉しくそして恥ずかしく頬を少し赤く染めた。
「じゃあ村に戻るか。立てるか?」
レオはステラに手を差し伸べる。
「うん。」
ステラはその手をとり立ち上がる。
そして2人は無事ワームを討伐したことを伝えに村に戻った。
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