プロローグ② 〜少女の叫び〜
「私と死んで」
そう言って笑みを見せた少女だがレオナードに抱きついている腕は震えていた。
先ほどまでレオナードと命のやりとりをするほど勇ましかった彼女の姿はもうなく今にも消え入りそうなほどか弱い存在にレオナードの視界には写った。
「姫さんにそこまで言わせるんだ。余程の事情があるのか? 姫さんの祖国は」
レオナードは何かを察したのか少女にそんな質問をしていた。
少女はレオナードに抱きついていた手をほどき笑みを浮かべていた顔から涙がこぼれた。
「やっぱりそうなんだな」
レオナードは少女の涙を肯定と解釈し自分の予想が当たったことを理解した。
レオナードは少し間を置き再び少女に質問をした。
「姫さんは本当に死にたいのか?」
レオナードのこの質問に対し少女は俯くことで明確な回答をしようとしなかった。
だがレオナードはもう一度
「姫さんは本当に死にたいのか?」
そう質問した。
少女は拳を握りしめ歯を食いしばり必死に何かを抑え込んでいた。
そんな少女の様子を見てレオナードはまた同じ質問をした。
「姫さんは本当に死にたいのか?」
3回目の同じ質問をされ少女は俯いていた顔を上げた。そして……
「死にたいなんて思ってるわけ無いでしょ!!」
2人だけしかいないこの荒野にその声を響かせた。
「私は心から死にたいなんて思ってるわけないじゃない!! だってまだ16歳よ!! まだ舞踏会にも出たことがないし戦争関係以外で城の外に出たこともないわ!! まだまだ学びたいこともあるしそれに………素敵な男性と、こ…恋……そう恋愛をしたこともない!! 今ここで死んでしまっては結婚をすることも出来ない!!」
少女は叫んでいた。自分がやりたいこと戦争さえ終わればできることを叫んでいた。
「だけど、だけど、この戦争が!!」
そう戦争さえなければ少女は今言ったことが出来たはずだった。
「この戦争が続く限りそんなことは出来ない!! しかも私は剣の国、剣に愛された国〈ライナード王国〉の姫なの!! さらにその〈ライナード王国〉の国宝に認められてしまったの!! だから出たくなくても私が戦争に出ないと国が……私達の国が無くなっちゃうし、私という“希望”がいるから王国は戦争をやめない!! だから私が私さえいなくなれば王国はこの戦争を続けられなくなるだから!!」
少女は自分の奥底に封じていた感情を吐露した。
絶対表に出さないと誓っていた感情を相手国の最高戦力相手に吐き出していた。
「なるほどな、姫さんはずっと戦争なんて嫌だったんだな。けど優しいから自分以外の人のためにそんなに頑張ったんだな」
レオナードは感情を出し切った少女の頭を優しく撫でた。
「わかったよ姫さん。そんな姫さんの願いこの傭兵レオナード・アインテイルが叶えてやるよ」
レオナードはそう言って少女の顔を上げさせた。
少女が顔を上げた先には先程と同様レオナードの陽気な笑顔があった。
「よしじゃあ姫さん報酬の話をしよう。俺は姫さんの全てって言われても死体を愛でる趣味はねぇからさ、とりあえず生きてる姫さんをもらうわ。だからさ姫さん、今の名前を捨てるのとその綺麗な髪をバッサリ切る覚悟をしといてくれよ」
レオナードはそれだけ言うと懐からナイフを取り出し少女に差し出した。
少女はそれを受け取ると髪を束ねている部分にナイフをあて一気に刈り取った。
「これでいいの? 傭兵さん」
少女は刈り取った髪を1つに束ねてナイフと一緒にレオナードに渡した。
レオナードはそれを受け取り
「契約成立だ」
それだけ言うと今度は懐からマッチを取り出し髪の束を燃やした。
それが燃えきるのを確認し傭兵は少女に
「じゃあこれからお前はステラ・フリューゲルな」
新しい名を与えた。
少女改めステラは一瞬なんのことかと思ったがすぐに理解し顔が-やはり見惚れるほど綺麗な-笑顔になっていた。
「じゃあ行くぞ〜姫さ……じゃなくてステラ」
レオナードはステラに声を掛けると投げ捨ててた大剣を拾い背に担ぎ歩き出した。
ステラはそんなレオナードの後を追いかけた。
この2人の行方はこの日を境に分からなくなった。
そのせいで戦争中だった剣の国〈ライナード王国〉、戦の国〈バルレーベン帝国〉
その両国は混乱に陥った。
片や剣に愛されていた少女が
片や一騎当千の傭兵の青年が
それぞれ立場は違ったし生き方も違ったがたった1つの共通点〈最強〉だった2人がいなくなったことで両国の戦争は2人がいなくなって3ヶ月もしないうちに終息した。
そしてその1ヶ月後には正式に終戦条約を締結させた。
剣の国と戦の国の戦争はこれにて終わったのだった。
そして消息を絶った2人はというと………
剣の国と戦の国が終戦条約を結んだ2年後のとある場所にて……
「起っきなさーい!!」
そんな声とともにレオナードの布団が剥がされた。
「うん? もう朝かステラ……」
「えぇそうよレオ!!今日という日がやっと来たわ!!」
レオナードはまだ眠気が残ってるのか目をこすり大きなあくびをした。
そんなレオナードの様子を見てステラは少し怒った様子で
「レオ!! 早く目を覚まして用意して!! 私はもう待ちきれないのよ!!」
ステラはそう言うと本格的にレオナードを起こしにかかった。
レオナードはさすがにそこまでされるのが鬱陶しかったため渋々だがベッドから降りた。
「もう大の大人がそんな調子でどうするの?」
ステラはそんな調子でレオナードにお説教を続けようとしたがレオナードはステラを片手で制し、その場で一回大きな伸びをして頭の中を切り替えた。
「わかったよステラ。すぐに準備するからちょっと待ってろ」
レオナードはそれだけ言って寝室とは別の自室に向かった。
レオナードのそんな様子を見て満足したステラも自分の部屋で最終チェックをしに行った。
そしてしばらくして……
「よしステラ準備できたぞ。お前もすぐに出れるのか?」
レオナードは少し大きめな巾着袋を背負い玄関に向かった。
「うん、もう用意もちゃんとしてあるわ。早く行きましょうレオ。私はもう待ちきれないわ!!」
ステラも少し大きめなカバンを携え玄関に向かった。
そして2人とも玄関から外に出た。
「じゃあ行くかステラ」
「えぇレオ」
2人は互いの顔を見合わせ無邪気な笑みを浮かべ
「「長い長い旅の始まりだ!!」」
声を揃えてそう言った。
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