第112話 変わらない過去 その3

「あの……ロスペル様。大丈夫ですか?」


 部屋に戻ると、ベッドに腰掛けて俯いている俺に、リゼが俺にそう尋ねてきた。


「え……何が?」


 俺は思わず聞き返してしまう。リゼは困り顔で俺を見ている。


「その……顔色があまりすぐれないようですから……」


 リゼに言われるまでもなく、俺は俺自身が最悪の顔色をしていることは理解できていた。


「……なぁ、リゼ」


「はい? なんですか?」


「……俺とアイツ、似てたよな?」


 俺はリゼにそう訊ねる。リゼは……黙ったままで俺を見ている。


 似ているも何も……やっていることは完全に同じだ。むしろ、アイツは未だに実行していない。


 しかし、俺はリゼを殺して人形にしている。


 俺の方がミラよりも、既に先を行ってしまっている……異常性で言えば、間違いなく俺の方が上である。


「……似ていると……言ってほしいのですか?」


 俺は思わず顔を上げる。リゼはキリッとした顔つきで俺を見ている。


 その瞳は……本当に美しかった。ガラスで出来ているとは信じられない……何か別の美しい宝石でできているかのような美しさだった。


「……ああ、言ってほしい」


 俺がそう言うとリゼは悲しそうな顔をしたが、その後、首を横に降る。


「……違います。アナタは……あの人とは違います」


 予想通りの答え……リゼならばそう言うと思っていた。


 そう言われた瞬間、俺は自身の罪の重さに押しつぶされそうになってきた。背中に自身の罪が、まるで蛇のように這い登ってきたのである。


「……そうか。ありがとう」


 俺はなんとか押し出すようにそう言った。リゼは……相変わらず悲しそうな顔をしていた。


「……ロスペル様、私は――」


「すまん。リゼ……部屋に戻って、エルナの様子を見てきてくれ」


 俺がそう言うとリゼは少し戸惑ったようだったが……名残惜しそうにしながら、俺の部屋から出ていってくれた。


 ……一人になると、益々辛い気持ちになってくる。


 俺は……狂っていた。今ならわかる。死んだ人間は帰ってこない。


 どんな手法を以てしても……そんなのわかりきっていたことなのだ。


 しかし、あの時は……わからなかった。俺の十年は一体なんだったのか……


 俺がそう考え込んでいると、ドアを叩く音がした。


 俺はベッドから立ち上がり、扉を小さく開ける。


「やぁ、顔色悪いね。どうしたの?」


「……お前、やっぱりか」


 扉の向こうには……予想通りピンピンしていて、相変わらずのニヤニヤ笑いをしているウルスラが立っていた。

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