第79話 統制の魔女 その4

 俺たちは何も話さず、ただ軍服姿の魔女の後ろをついていった。


 暫く歩くと、目の前に大きな一軒の屋敷が見えてきた。


「あれが、私の家だ」


 そういって目の前の巨大な屋敷を指差すクラウディア。


 とても大きな屋敷だった……まるで有力な貴族が住まいとするような豪邸を、クラウディアは自身の家だと言ったのである。


「……随分と、大きな家だな」


「ははっ。私はあんな家、必要ないと言ったんだがな、どうしても皆が私に住んでほしいといって聞かなかったのだ」


 困ったような笑顔でそういうクラウディア。


 なんだかひっかかる言い方であったが俺はそれ以上詮索するのはやめることにした。


「さぁ、入ってくれ」


 そういって屋敷の門の前へと進んでいく。門の前には門番が立っていた。


 クラウディアが来ると門番は深く頭を下げ、門を開く。


 そのままクラウディアとともに門を通り、玄関の前まで来た。


 玄関の前までクラウディアが来ると扉が一人で開いた。


「お帰りなさいませ。クラウディア様」


 扉を開けた先には、一人のメイドが立っていた。


 そして、その先にも、大勢のメイド達が待ち構えていた。皆、クラウディアに対し深く頭を下げている。


 その状況はどこか異様で……目の前の女性が魔女であるということを俺に現実として教えてくれるような光景だった。


「ただいま。何か変わったことは?」


「いえ。ありません」


 メイドは頭を下げたままでクラウディアにそう言う。やはり、異様な感じだ。どうも居心地が悪い。


「そうか。彼等は客だ。客間に案内するよ」


「かしこまりました。マントをお預かりします」


 メイドにマントを渡し、そのままクラウディアは広い玄関を歩いて、先にあった廊下へと進んでいく。


「驚いたかな? まったく。私もこんなに豪勢なのはあまり居心地良いとは思えないのだがね」


「それじゃあ、なぜこんな風に大勢のメイドが?」


 俺がそう訊ねると、クラウディアは苦笑いしながら俺の方を見る。


「ああ。それも、皆が私に言ってくるんだ。自分をメイドとして使ってくれ、給料なんていらない、とね……困ったものだよ」


 そういって進んで言った先には、広間があった。


 中央に長いテーブルがあり、その周りに来客用の椅子が置かれている。


「さぁ、かけてくれ」


 クラウディアはそのまま机の向こう側の椅子に座った。


 俺とリゼはクラウディアと向かい合うようにこちら側の二つの椅子に座る。


「さて……君達の用はなんだったかな?」


 クラウディアは忘れてしまったことを恥じるように小さく舌を出しながら俺とリゼにそう言ってきた。


「あ……エルナです。エルナ・エクスナーが、この街に来ていると……」


「え? ああ。そうだった。すまない。おーい。誰かー! 呼んできてくれ!」


 大声で廊下に向かってそう言うクラウディア。


 しばらくすると、廊下の方から足音が聞こえてきた。


「失礼します」


 そういって一人の少女が部屋に入ってきた。


「あ……エルナ……」


 安堵したような、それでいて少し不安そうな声でリゼがそう呟く。


 クラウディアに呼ばれて姿を表したのは……確かに俺たちの知っているエルナ・エクスナーその人だった。

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