第43話 不思議な存在 その4

「腹、減ったぞ」


 道を歩いていると、フランチェスカが不満そうにそう言った。先を進んでいた俺とエルナ、リゼの三人は振り返る。


「……アイツ、腹減るのか」


「まぁ、一応人間、だからじゃないか?」


 俺とエルナは不思議そうに後ろを付いてくるフランチェスカを見ている。


「あ……二人は、大丈夫なのですか?」


 その一方で、リゼは心配そうに俺とエルナに話しかけてきた。


「大丈夫って、何が?」


「だって……私が何度もここ数日休憩をとった方がいいと言っているのに……」


 言われてみて、確かに俺は数日、きちんと飯を食べていないことを思い出した。


 リザが死んだことを知った直後の二週間ほどは、飯を一日も食べなかったのを思い出す。


 しかし、今の俺にしてみれば、既に生きる目標などないのだから、飯を食べる必要性すらも考えられなかったのだ。


「姫様。ご心配なさらず。私はこういう状況には慣れていますので」


「ですが……ロスペル様はどうですか? 本当に大丈夫なのですか?」


「え……ああ。別に大丈夫だ。慣れているからな」


 俺がそう言っても、リゼは全く安心しないようだった。


 その顔を見ていると、なんだかリザに心配されているようで、少し嬉しかった。


 リザは俺を心配してくれただろうか……あんまりそんな記憶はない。やはり、俺のことなんてどうでもよかったのだろう。


 だからこそ、アダムと結婚したのだ。俺のことなど邪魔だったのだろう。


 そう言う面でもやはり、リゼは俺の知っているリザとは遠い存在だ。なんだかそんなリゼを見ていると、心配させるのが悪いような気がしてきた。


「……まぁ、でも、近くに街が見えたらそこで休むか」


 俺がそういうとリゼは安心したようで、嬉しそうにほほ笑んだ。


 その笑顔を見れば見るほど、俺自身が作った人形というのは信じられない事実である。


 対して、なぜかエルナが俺のことを睨んできた。よくわからないが、相変わらず無愛想な奴である。


「なに? 飯か?」


 そして、無邪気にそう言うフランチェスカが後ろから走ってきた。


 俺とその一向は近くに街が見えるまで歩き続けることにし、道を進んでいった。


 そして、程なくして小さな街の影が見えてきた。


 街の前まで来ると、見えたとおりにあまり大きくもない、小さな街だった。


 街の中に入ってから、俺達は脚をとめた。


「……じゃあ、とりあえず、飯屋にでも入るか」


「いえ、ロスペル様。宿屋を取ってください」


 俺の提案に対し横からリゼが割って入ってきた。


「なんだ? この街に泊るのか? いいのかよ。急がなくて」


「ええ。既にロスペル様も、エルナも、それにフランチェスカさんも歩き通しで疲れているでしょう。だから、少し休んだ方がいいと思って……」


「姫様……お気づかいなさならないでください。私は……」


 エルナがそう言うと、リゼは首を横に振る。


「ダメです。エルナ。貴方は女の子でしょう。もう何日もベッドで寝ていないし、お風呂だって入ってないですよ?」


「しかし、姫様……私は……」


「エルナ。これは命令です! 宿屋に泊ります。いいですね?」


 はっきりと強い口調でそう言われてしまい、エルナは何も言えないようだった。


 ……どうやら無愛想な冷徹女も、やはり主君だけには逆らえないようだった。

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