鉄道占い

鐘辺完

鉄道占い

 ふと見ると、路肩に占い師がいた。

 机に白い布をかぶせ、その机の上をNゲージの鉄道模型が円を描いた線路を走っていた。

 おれはそのNゲージがなんなのか興味をひかれて、きいてみた。

「その鉄道模型は占いに使うんですか」

「そうですよ」

 髭を延ばした痩せた占い師は、にこりとして答えた。営業スマイルではない。よほど客がこなかったところに来たからか、それとも鉄道模型についてきかれたのがうれしいのか。

「鉄道模型占いですよ。基本的にほかの占いと複合してやるんですけどね」

「へぇ」

「やってみますか? 105円でいいですよ」

 安いが消費税込みか。

「はい。話のタネに」

 占い師は、なにやら手元のスイッチを押して電車を一度止めた。

「105円なので簡易版で。願い事を考えて赤いボタンを押してください」

 ボタンがふたつだけのスイッチボックスを手渡された。赤と青のボタンがある。

「はい。では」

と、おれがスイッチを押すと、鉄道模型の電車はモーター音を立てて再び走り出す。

「では、なんとなく今だと思う瞬間に青いボタンを押してください」

 おれは願いを念じていたので返事はしなかった。

 なんとなく、今かな、という瞬間に青いボタンを押した。

 電車からかすかにかしゃりという音がした。

 電車は占い師の前まで来たらぴたりと止まり、その屋根が開いた。「中吉」と書いたプレートがそこからびよんと飛び出した

「はい。中吉です」

「……えーと。なんでもいいけど、電車止めるのは客の近くのほうがいいのでは?」

「いえ、電車が止まるのはえきしゃ駅舎のほうです」

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鉄道占い 鐘辺完 @belphe506

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