ワールド・チェンジ・アビリティ

パンプキン

始まりの唄

 夢を見ていた。


 それは遠い昔から見ていた夢。


 夕暮れの公園に、聞きなれた音楽がスピーカーを通して響き渡る。子供が家に帰って、誰一人としていなくなった空間に、1人の少女がやって来る。


 彼女はブランコに乗っても、滑り台を滑っても、植えてある花を見つめても、何一つ楽しそうな顔をしなかった。


 少女に問いかける。「家に帰らないの?」


 少女はこちらを見て、「やる事があるの。人を、待っているの。」と言った。

 少し寂しげな顔だった。


 少女がこのまま夜になるまで1人でいるのは危険だと思い、その《人》が来るまで一緒にベンチで待つ事にした。


(どうせ家帰ってもする事ないし…)


 日が沈みかけた頃、街灯が揺らぎながらつきだした。それと同時に、少女はすくっと立ち上がり、こちらを見て微笑んだ。


「お兄ちゃん、ありがとう。此処ここで待っててくれて。もう、帰る事にする。もう、始まっちゃたから。」


 何かのTV番組が始まったのかと思い、そうか、だけ言って自分も立ち上がった。

 すると少女はいきなり閃いたような仕草をし、腕を掴んで引き留めた。


 –いつもなら、ここで目が覚めていた。

 しかし、今日はイレギュラーだった。


「貴方だったのね…!待ちくたびれたわ。やっぱり、未来は変わらないのね…!」


 突然の事で思考回路がショートしかけていた。

 なんだこの展開は。初見はキツイものがあるぞ。


「一緒に、遊ぼう?今回のゲームは、鬼ごっこだよ。」


 今回、は ?今までにも何回かやってきたかのような言い方。少し不自然だった。しかし、折角ここまで公園にいたのなら「嫌です」とそそくさと家に帰ってしまうのは勿体無いと思う。


「いいよ。鬼は誰?」


 少女の目が輝いた。


「うんとね、こっちが鬼だよ!こおり鬼をやろう!」


 こおり鬼。懐かしい。一度捕まったら、味方が自分を触ってくれない限り氷のようにその場で固まっていないといけないものだ。鬼は変わる事なく、逃げる側が全員氷となって全滅したら終了。


「けど、2人でやるの?」


「ううん。お兄ちゃんが目を覚ましたら、全てがわかるよ。お兄ちゃんのチームの勝利条件は、私を殺す事だよ!でね、ちょっとルールを変えるんだけど、こっちのチームはお兄ちゃんのチームの王将を凍らせて2日経ったら勝ちにするね。」


「…殺す!?」


 意味がわからない。第一、彼女は殺す行為自体軽く受け止めているのではないか。王将とはなんの事なのか。さっぱりわからない。


 –死ぬのは誰だって怖い–


 聞き覚えのある懐かしい言葉が浮かんだ。

 …思い出したくもない記憶が蘇ってくる。

すると、突然激しい頭痛に襲われた。意識が遠のいてゆく。


「じゃあ、スタートだよー」


 少女は満面の笑みを浮かべながらひらひらと手を振っていた。




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