テロメアの子供たち

詠野万知子

第1話「不死の病」

Episode: 00 世界の底

 飛び込んだ瞬間、空気で服が膨らんで体が浮いた。

 一瞬後には頭から爪先まで水に沈む。

 冷たい水を含んでどんどん体が重たくなる。

 苦しさと混乱でもがくどころではなかった。

 何のために川に飛び込んだのかを忘れて、ただ酸素を求めて水面へ向かう。

 水面は真っ黒だ。

 この世の果てみたいだ。

 顔が、体中が痛い。

 水面にぶつかった衝撃と、鼻からたっぷり水を吸い込んだせいだ。

 それに、さっきから漂流物にぶつかる。体がどんどん沈んで行く。

 この川は、こんなに深かったのだろうか。

 体温を失いつつある体を動かすのは難しい。

 もう酸素も得られず、意識も鈍い泥のようだ。

 何かを追って、川へ落ちたはずだった。

 それを取り戻して、ここを出なくてはならない。

 でも、一体、何のために。

 信じてきた世界が、姿を変えて、俺を裏切ったのに。

 今更、そんなところへ戻る必要なんて、ないんじゃないだろうか。


(死ぬ、かな)


 もう何も見えない、光が失われた視界でそう感じた。

 俺は、このままここで命を落とす。やがて下流に流れ着いて、変死体となって発見されて、きっと自殺として処理される。そうなる理由があるのだから。

 だから、もう。


 ――諦めかける意識の縁に、何かが引っかかる。


 視界の端に、それが見えた。

 頭が諦めても、身体は苦痛に耐えられずに必死にもがいた。

 水を掻く手に、何かが触れる。白くて、光のような。

 それをきっかけに、馴染み深いなにかの姿を捉えた。

 それは、深い紺色のセーラー服を着た女の子のかたちをしている。

 彼女が囁くように言った、その声が耳に甦る。


『わたしは死なない。そういう病気だから』

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