上向き彼女と下向きカレシ

まるお

第1話

少しかすれた、ブルーのカーテンが風でゆれ、その隙間から洩れる朝日をベッドに


横たわりながら、ただ眺めている。


特に何に疲れたわけでも、何に悩んでいるわけでも無い。強いて言うのなら、また


今日が来たかと思うだけだ。


「ナイトーーっごはんよー」下階にあるダイニングから、いつもの声が響く。


まるでそれがスイッチのように、身体が無感情に動いて準備をすすめる。


ほどなくして、ダイニングに降り すでに家族が座っている食卓につき、時計に目を


やる。 午前7時を少しまわったところだ。


「お兄ちゃん、おはよ」と明らかに昨日とは異なる明るい髪色の妹が言う。


なるほど、昨夜の洗面所での刺激臭はお前か。


「おまえさあ、学校でソレだいじょうぶなの?」


「はあ?この位はふつうだよ、ってかさあ、お兄ちゃんこそソレだいじょうぶな


の?」 そう言って、まるでバカにしたように小さく笑う。ダサいとでも言いたいの


だろうか?



妹 の事を思って言ったはずなのだが、最近妹の風当たりが強い気がする。


おそらくは僕の一言が、彼女には反対語に聞こえるのだろうか?


そして、その不可解な症状に両親は気づいてないように思える。


なぜなら、この劇的な髪色の変化に何の指摘もかければ リアクションもない。


芸人で無くても普通、それなりに驚くだろう。


考えてもみてくれ、朝の気持ちいいまどろみにつつまれながら下階に下りてくる。


すると、目の前には化学薬品を頭からかぶってしまい その化学反応によって、髪色


が本来のきれいな黒髪からワーオッとでも言いそうな金髪へと変貌してしまっている


愛娘がいるのだ。特にヘアカラー、ブリーチ剤ってのはね、これはこれは~って位の


化学薬品のかたまりなのだよ。って言うか、そもそも100%石油由来だからね。


はい、これをふまえて親としての一言をどうぞ。


「アイ、、、行って来ます」


「いってらっしゃーい」 と髪色に負けない元気な声色で返す。


そして仕事に向かう父を玄関先まで母が送る。 はい、おわり。



 6月 梅雨入りの少し前。 今年から晴れて大学生になったわけだが思い描いてい


たようなキャンパスライフとの違いに戸惑いを覚える。


僕の理想は自分の学びたい事だけを学び、自由気ままに出来るだけ人との関わり合い


を避け かつ、平均的、普通でいたいのだ。


だが、実際は勉学はそこそこサークルメインで何かあればSNSに投稿し、なんとな


くアゲアゲで、かつサタデーナイトフィーバーでパーティーピーポ―的な?


皆がそうだというつもりはないが、ぼくにとって、平均的、普通というスタンスは崩


したくない。


 なぜなら、それが一番だからだ。考えてもみてくれ、平均的、普通ということは他


者との衝突が少ないのだ、よく人とぶつかる人というのは、いい意味でも悪い意味で


も目立っている人が多い。


 例えば自分の信念に基づいての意見が他者の信念を曲げる結果になれば2人の衝突


は避けられないだろう。あるいは、圧倒的に他者をおしのけるパワーや権力を持つ者


もそうだ。結果、リサイタルによかれと思って呼んだ人々からは見えないところで陰


口を叩かれるゴウダタケシ的な存在へと堕ちてしまう。


すると映画版の時だけでもいい人にならなければいけないという責にとらわれてし


まう。


そんなストレス、僕には耐えられそうにない。


周りにいいヤツだと思われている人間は、完璧善人ならいいかもしれないが 大抵の


人間はそこまでではない。


だが、周りに慕われる反面あまり気分が乗らない時でも相談にのらなければいけな


い。 まだ相談されるにたる内容ならいいだろう、しかし単なる男女間の愚痴や好き


なアイドルやアニメキャラの事に2時間も熱弁された日には下記のいずれかにあては


まってしまうこと請け合いだ。


① 就職先は苦情受付センター


②ディープなアイドルやアニメオタ


③そうだ、いっそのこと時間でカネ貰おう


④聞いているフリして今年末のガキ使やるのか、やらないのかを推理する


⑤分かりました。その壺売って下さい。


他にもあるが、これだけ具体例を挙げれば平均からはずれる、 人より目立つことの


恐ろしさ、危険度を分かってもらえたと思う。




大学に向かう時も気を使う。受けたい講義がある日は極力30分前には席に着く


人気の講義だと約1時間前だ。別にギリギリに行っても座れない訳ではない。


だが、あとからだと当然すでに来ている学生がいるので混んでいる時は、自然と間の


席に着く事になる。


それ自体何もまずくはないのだが、大概の場合 特に女性の場合が顕著だが僕が


席に着くなり、チラ見したかなと思うと急によそよそしく姿勢正しく座り、講義が退


屈なのかイジっていたスマホをしまい 中には講師にチクらないでね、とばかりに微


笑みかけてくる学生もいる。わるいが、わざわざ君の素行をチクるほど暇でもなけれ


ばマジメちゃんでは無い。そもそも僕は人と極力関わり合いたくないのだ。


その点、先に席に着いておけば「前の方の席なら尚イイ」あとから来た学生は後ろ


の方から座っていくので関わらずに済むのだ。


だが、前の方ならどこでもいいわけでもない。教室の中に居るのは学生だけではな


い。当然講師も居るし、講義の内容によっては助手もいる。


そして講師に注目されることは、ある意味学生に注目されるよりも注意しなければい


けない。


それは講師に注目される事により下記のような事態に陥る可能性があるからだ。


①この学生いつも前に座っているなぁ


②目が悪いのかなぁ


③いや、単に私の講義に熱心なんだ。


④助手志望?


⑤いや、そんなものじゃない。弟子になりたがっているんだ。


⑥よし、手始めに講義の準備をやらせてみるか


最後までいってしまたらもう、どうしようもない。残りの大学生活をハゲたおっさん


と過ごすという地獄に身を置く事となるだろう。


さらには助手をする事で他の学生にも認識され、目立ってしまうこと請け合いだ。


だが、それを回避するのはそれほど難しくない。


どの講師もそれ程差は無く、黒板に書いたあとにその黒板の正面を振り返る。なの


で、それらを回避するために僕は前の方に座るのだが、極力講師の視界に入りにくい


黒板の幅をかわした位置に座っている。教室の大きさや席の配置にもよるが、端っこ


だと逆に目立つので端より4から5番目位の席がオススメだ。



さて、いろいろ僕の気苦労ばかり伝えてしまったが大学はキライじゃない。いや、む


しろ好きな方だろう。単位を取るために必要な講義を受けたり、定期的に出題される


レポートさえ人並みにこなしていれば基本お気楽なもんだ。年中空調のきいた図書室


で本を読んでいてもいいし、お腹がすけば格安で食べられる食堂もある。ただ、それ


らを十分に満喫するには気を付けなければいけない事がこの世の中にあふれているの


だ。


 そしてこの重大な真実に気づいている者はどれだけいるのだろう。



 土曜日の午後、久しぶりに地下鉄で4区間ほど乗った先にある街へくりだす。


さんざん、人と関わりたくない目立ちたくないと言っているぐらいだから、


休みはきっと家に引きこもってるのだろうと思っているのかもしれないが、それほど


でもない(照れ)


確かに基本休みの日は家でゲームでもしながら、ゴロゴロと過ごすのがお決まりとな


っているのだが、たまに出かけたいと思うときもある。


 地下のどんよりとした、おっさん臭を颯爽とくぐりぬけ、バッグを後ろ手に持ち、


スカートを気にしながら階段を上っていく女性を追い抜く。


 すると、温かい日の光に包まれ風が頬をなぜる。その風にかすかな湿気と草木が少


しむれたような青臭い匂いを感じる。確かに今日は貴重な晴れ間ではあるのだが、僕


がわざわざ危険を冒して出てきたのはそんな感傷的な気分からではない。


 なんとアメリカで超大人気の人気ドーナツ店グリズリークリームドーナツがこの街


に初出店なのだ。かくいう僕は甘くて穴のあいた食べ物に目がないのだ。


人通りの多い中、足取りが自然と軽くなる。 途中、バイトらしき女性がポケットテ


ィッシュを渡してくるがもちろん受け取らずに素通りする。


 一般ピーポの方々から見れば何故タダで貰えるのに受け取らないのか不思議に思う


だろう。しかし、考えてもみてくれ。本当にタダなのだろうか?この疑問に納得のい


かない人は街で貰ったティッシュのパッケージをよく見てほしい。するとどうだろ


う、ところせましとばかりに宣伝が載っているはずだ。


その宣伝を見て欲しいから受け取って貰いやすいポケットティッシュを広告媒体とし


て業者はお金をかけて用意しているのだ。この時点でそんな事は知っているとほとん


どの人が思うだろう。


しかし、重要なのはここからだ。今度は広告の内容に注目してみよう。すると約半分


ほどがお金貸します的な金融関係ではないだろうか?、、、半数以上の人がピンとき


てないだろう。


例を挙げよう。 街で貰ったお金貸しますティッシュを普段持ち歩いているとしよ


う。


 食事をしては一枚使い、手を汚してしまった時に一枚使い、生理的にキライな人か


ら物を受け取る時にも1枚か2枚ほど使うだろう。そうやって使うたびに、意識的では


ないにしても広告を目にすることになる。その結果、以下のような事態に陥る可能性


があるのだ。


①何度も目にすることで刷り込み効果発動、会社のCMソングを歌いだす


②急な出費があった時のためとか、自分でも不可解な理由をつけてとりあえずカード


作成


③あと、1週間が待てずに少額を借り始める。


④預貯金は?と聞かれるとさわやかな笑顔でローンカードを見せる


⑤限度額の増額を申請、さらに足りない分を別の金融会社からも借りだす


最後までいってしまったら、もうどうしようもない。自己破産、もしくはブラックな


金融会社に債権を売られ、内臓を売られたりするかもしれない、、、


もう、分かってもらえたと思う。たかだかティッシュのひとつやふたつで背負うリス


クではないという事を。



しばらく歩を進めて行くと、分かりやすいほどの人だかりが見える。


夢にまで見たグリズリークリームドーナツだ、思わず駆け出し行列の最後尾に並ぶ。


よく何時間並んだ、前日の夜から、達人レベルになると数日前から並んだことがある


と自慢げに話すヤツがいるように、行列が出来るほどの人気店に並ぶことにある種の


悦びを感じる人間が存在する。もちろん僕はソッチのタイプではない。この列も進み


具合から察するに30分程度だろう、、、丁度いい。もちろん普段なら目的の店に列が


できてようなものならば今度にしよう、と踵を返すだろう。だが、この店「グリズリ


ークリームドーナツ」に関しては数か月前に雑誌で出店予定の掲載を見てからずーっ


と楽しみにしていた店なのだ。


それだけ楽しみにしていた店のオープン初日に全く行列が無かったことを想像してみ


るといい、、、、、


 自分の感覚が周りとずれているのかもと、少し恥ずかしい気持ちからやがて寂しい


気持ちになるかもしれない、、、とかって一般人は思うのだろう。


 そんな感覚だから先ほどのティッシュ事案に引っ掛かり、結果内臓を売られてしま


うのだ。


自分目線も大事だが、より深く相手の事も想像することで物事の本質を見極める事が


できると僕は考えている。イマイチぴんとこないだろうからここでも例を挙げるとし


よう。


状況は自分が楽しみにしていたスイーツの店がオープン初日にも関わらず、行列どこ


ろか客よりも店員の人数が多いくらいという設定でいこう。


①店に着くも、本当にここで合っているのかと店名を何度か確認。


②混むことを予想しての警備員の配置だが、2人とも絶賛スマホでゲーム中


③店に入った途端、自分一人に向けられる店員全員からのいらっしゃいませに耳負


傷。


④商品を選ぼうと、夢の国のようなショーケースを覗いているとショーケースの奥、


売り場から菓子を製造する作業場へと続く通路の途中でオーナーらしき人物が地べた


に座り込み、うなだれているのが目に入り夢の国から強制退去(現実へ)


⑤店員の数が有り余っているため、客一人に対して店員2人の接客。しかも二人とも


トレイをもっており、気が弱いまたは優しい人は大出費


⑥本日中にお召し上がりくださいと言われてしまい、無理して3箱平らげて糖がでる


ようになる。


どうだろう?ただ、自分が期待して入った店が流行らなかったという事だけで、耳を


負傷し大金をはたいてしまい、更には糖尿を患うという最悪な結果になってしまうの


だ。


当然流行らない店も潰れてしまい、ショーケースの奥で目にしたオーナーも多額の借


金にあえぎ、街を放浪しているなか無意識にポケットティッシュを受け取ってしま


い、結果てきに内臓を失ってしまう。


 不幸はまだ終わらない、店で人の鼓膜を打ち抜くほどの声を出していたアルバイト


の女の子を覚えているだろうか?あの子だってタダではすまない。5人兄妹の長女で


ある彼女は女手一人で育て、自分を高校にまで通わせてくれた母を少しでも助けよう


と、この店でほぼ毎日アルバイトをさせてもらっていたのだが、待ちに待った給料日


にいつものように店を訪れると入口は鍵がかかっており、閉店の意を示す手書きの紙


が貼ってあるのを見て初めて店がつぶれてしまった事を知る。


 今日は久しぶりに母や、弟、妹たちにパンの耳以外のものを食べさせてあげようと


思っていたのに、、、彼女に救いの手を差し伸べる者は誰もいない。


 それでも彼女は前を見て歩をすすめる。その姿を知ってか知らずか、唯一差し伸べ


られる手が見える。彼女は迷わずその手を差し出す、、、、ポケットティッシュだ。


以下省略








 



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