幻夢の2  姉の手

 孝太は常日頃、二階の子供部屋で一つ年上の姉と一緒に寝ていた。

 就寝中、姉はよく孝太の手に触れてきた。

 翌日姉にたずねても決まって覚えがないと答えたため、おそらくは無意識のうちにしたことだったのだろう。

 姉と手をつないでいると不思議とよく眠れたため、孝太も特にそれを拒むことはなかった。


 その日も孝太は、いつものように姉より先に布団に入り眠りについた。

 夜中に突然トイレにいきたくなり、寝ぼけまなこをこすりながら階段を下りていく。

 用をすませ、ふと座敷へ顔を向けて立ち止まった。

 ぼんやりと人影のようなものが見えたからだ。

 髪の長い女の人影は、真っ白い着物をまとい、正座をして仏間の方へ顔を向けていた。

 一瞬、奥の部屋で寝ているはずの母親かとも思ったが、どうやら違うのだと気づいた。

 異様な雰囲気の後ろ姿を目の当たりにし、孝太がぎょっと目を見開いて後ずさりする。

 その気配が伝わったのか、人影がゆらりと立ち上がった。

 そして孝太の方へ振り返ろうとしたのである。

 恨めしそうな白い手をさしのべ、孝太をつかまえようとするように。

 声も出せずに、孝太が一目散に二階へ駆け上がる。

 それから慌しく開き戸を閉めると、布団を頭から被り縮こまった。

 とん、とん、とん、と階段を踏む足音がかすかに聞こえてくる。

 やがてそれは、すっと戸を開ける音へと変わった。

 ガチガチと歯がぶつかり合う。

 怖くて怖くてしかたがなかった。

 確信のない念仏を唱え、ひたすら震えていると、隣で寝ている姉がいつものように手を伸ばしてきた。

 わらをもすがる思いで、姉の手をぎゅっと握りしめる。

 すると姉の方も、いつものようにその手を握り返してきた。

 何故だかそれで気持ちが落ち着き、知らぬ間に孝太は眠りについたのだった。


 目が覚めた時には、すでに姉の姿はなかった。

 はっきりしない意識のまま孝太が階段を下りていくと、台所から母親の声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん、お熱まだ下がらないみたいだね。今日もママと一緒に寝ようか……」


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