紙のジャパリパーク

楠樹 暖

折り紙

 その頃のボクはお母さんと一緒に動物園に行くのを楽しみにしていた。

 でも、お母さんの病気の症状が重くなり動物園に行く約束はキャンセルされた。

 病室で何度も何度もすまなさそうに謝るお母さんを責める気は少しも無かった。

 ボクは覚えたての折り紙で猫の顔を折った。

「ここが動物園だよ」

「スゴーイ! リュッ君は手先が器用なんだね!」

 お母さんはボクを褒めてくれた。

 それからぼくはお母さんに褒めてもらいたくて学校の図書室で毎日新しい動物の折り方を覚えていった。

 折り紙の動物たちを大きなリュックサックに詰めてお母さんのいる病室まで行く。

 そこで動物たちを広げて、折り紙の動物園を開園させていた。

「これは、ポンポコタヌキさん。こっちはハチミツクマさん」

 新しい折り方を覚えるのとは別に、折った動物たちのことも図鑑で調べて詳しくなった。

「スゴーイ! リュッ君は動物のことをよく知ってるんだね!」

 折り紙の動物園は次第にカタチを変えていった。

 動物たちが狭い檻の中では可哀想だと、檻は無くして自然の中で暮らす設定になった。

 そうなると動物園というよりはサファリパークみたいになってきた。

 折り紙の動物も種類を増やすために模様を描いてみようと思った。

 ネコの折り紙にお母さんの体に出てきた斑点を描いてみた。

 サインペンで点々と模様を描く。

 お母さんネコの折り紙を持って病室へ入ると、お母さんの斑点は更に広がっていた。

 ボクがジッと見ているとお母さんが自分の体の斑点を隠すようにした。

 そのときボクは気がついた。病気でできた体の斑点のことをお母さんは恥ずかしいと思っていることに。

 折り紙のお母さんネコに点々を描いたのは間違いだと思った。

「これはなんていう動物?」

「えっと、それは……サーバル・キャットだよ」

 とっさに図鑑で見たサーバル・キャットのことを思いだした。

「サーバル・キャットはね、ジャンプ力が凄いんだよ!」

 こうして、お母さんネコのつもりで作った折り紙はサーバル・キャットとなった。

 サーバル・キャットはお気に入りの折り紙となった。

 動物園も広くなり、ヒトの子とサーバル・キャットが一緒にバスで廻っていろんな動物に会っていくという物語形式となった。

 新しい動物が登場し、図鑑で覚えたことをお母さんに教える。

「スゴーイ! たのしーねー」

 お母さんは手放しで喜んでくれた。

 いつかお母さんの病気が治ったら本当の動物園に一緒に行くんだ。

 その頃のボクはそう信じて疑わなかった。


 そして、あの日、折り紙の動物たちを詰めた大きなリュックサックを背負い病室へと行くと、お母さんが集中治療室へと移されるところだった。

 その日を境に、折り紙の動物園は開園することはなくなった。


    * * *


 ボクは大学へと進学し、住み慣れた家を離れて下宿することになった。

 荷物を整理していると小さなリュックサックが出てきた。

 中には折り紙の動物たちがいっぱい詰まっていた。

「折り紙の動物たちって、こんなに小さかったっけ……」

 リュックサックの中には折り紙を覚えたての頃に作った紙飛行機もあった。

 ボクは紙飛行機を窓から外へ向けて飛ばした。

 狭い部屋から放たれた紙飛行機は、広い外の世界へと飛び立った。

 遠い空から見守ってくれるお母さん、気がついてくれただろうか。

 紙飛行機は風に乗って高く飛び、青い空へと消えていった。


(了)


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紙のジャパリパーク 楠樹 暖 @kusunokidan

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