サクラの木
いくま
サクラ
消えそうな光は、ゆらゆらと弱く、空高く登って見えなくなった。いや、消えたのか。
あれは一体何だったのか。地面から出てきたのか、はたまた僕の中から出てきたようにも思える。僕は、僕にとって大切なものを失くした気がした。
そろそろサクラの咲き始める時期だ。せっかちなのか、もうすでに咲きはじめている奴もいる。かと思えばマイペースなのか、まだ蕾がちっちゃい奴もいる。
花粉が辛い季節だ。僕もマスクが欠かせない。すれ違う人もみんなマスクをしている人が多い。最近は黒いマスクも流行ってるようだが、暑くはないのか。でも、この時期だからこそ、黒いマスクにサクラを書いたらきっと、素敵なマスクになるのかなと、1人考えながら卒業式へ向かう。そう、1人で。
冬休み前までは僕の隣に、いつも僕の変な話を笑って聞いてくれる奴がいた。だが、奴はもういない。よくある話だ、親の転勤で引っ越した。卒業式前なのに。
奴と出会ったのは高校生になったばかりの頃。僕はただフラフラと街を歩いていた。部活には入らず、バイトもせず、学校と家の往復。そんな毎日に嫌気がさして散歩をしてみようという気になったのだ。サクラが綺麗だった。奴は泣いていた。サクラの木の前で。制服で僕の通っている学校だとわかった。奴は、ただただ綺麗だった。泣いている顔も、そこに奴しかいないことも、その一瞬がとても綺麗だった。だから声をかけた。仲良くなった。
奴は僕の話をいつも笑って聞いてくれた。どんなにつまらない話でも小さな話でも、ここが面白いと見つけてくれた。いつか、なんでそんなに見つけるのがうまいんだ。と聞いたことがある。その時、奴は言った。
俺はお前の友達だから、いつも隣で見てるから
って。なのに、奴はいま僕の横に居ない。今日のサクラは奴と出会った頃によく似ている。そういえばここは奴と出会った場所。奴が泣いていた場所。僕もいま、同じ場所に立っている。不思議と涙が出て、奴と同じ状況になっていた。その時、バッと風が吹いてサクラが散る。僕の涙を隠すように、ヒラヒラと。きれいだ。この一瞬が。
『おめでとう』
サクラの木 いくま @kicho_ikuma
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