通り雨
chatora
第1話
傘を買おうと思って思いとどまった。
どうせすぐに止むだろう。
ここ最近毎日のように訪れる通り雨。
おかげで、家にはその時使っただけの安物の傘がたまってしまっていた。
急ぐこともないし、傘を買ったと思って駅前のカフェで雨宿りをすることにした。
🐾
店に入ると思いの外混みあっていた。
空席を探してうろうろしていると、後ろから声をかけられた。
「久しぶりじゃないか。」
それは学生時代の友人だった。
何十年かぶりの再会。
よく自分が分かったと感心すると同時に、自分も相手が誰であるか分かったのは不思議なものだと思う。
お互いにあの頃のまではなかったが、やはりどこかあの頃のまま変わらない何かがあるのだろう。
🐾
ふと気付くと雨は上がり自分がうたた寝をしてしまっていたことを知った。
どうして学生時代の友人に会う夢など見たのだろうか。
やつに出会うことなど決してあり得ないのだ。
数十年前、海外の赴任先で事件に巻き込まれて彼は既に亡くなっている事を私は知っていたはずなのに…
空は晴れたが気持ちは何だか重たいままだ。
駅前は帰省ラッシュの時間帯で、普段ならば避けたい人混みだったが、今ならば人混みに紛れる事でこの重たい気持ちも忘れてしまえるのではないだろうか。
そんな願う様な気持ちでそのカフェを後にした。
🐾
それにしても嘘みたいに晴れてしまったな。
雨上がりの駅前の人混みを彼はカフェの窓から眺めていた。
すると、学生時代の友人に似た人物がその人混みの中を通り過ぎて行くのを目にした。
ふと追いかけて声をかけてみたい衝動にかられたが、やはり止めておいた。
本当にその友人だという確証もないし、とある事情から昔の知人は皆彼が既に死んでいると思っているはずだった。
今更どんな顔で会って、何から説明をすればよいというのだろうか。
面倒なだけではないか。
そう思い諦めた。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に彼は慌ててカフェを飛び出す。
そうして人混みに紛れようとするかつての友人に似たその姿を、無我夢中で必死に追いかけていた。
通り雨 chatora @urumiiro
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