ハヤト 6
お弁当は持ったし、水筒も持った。
うん!ピクニックっぽい!
今日はハヤトとむかーーーーしにした約束を果たす日。
多分・・・・・私とした約束なんて、覚えてなさそうだけど。
ハヤトが土の国へ密入し、水の国へ戻ると言った時。
見送る直前でピクニックに行こうって約束したんだけど、あれから何年経ったんだんだったっけ・・・・・。
まぁ忘れても仕方がないか。
忘れてしまったのなら、また新しく約束したらいい。
これからハヤトは自由に人間といて生きていく事が出来る。
色んな事に挑戦出来るようになるし、楽しみの幅も増えるはず。
今日はその一歩。
地下に降りて電車を待つ。
土の国の人間は移動する時は上の世界の交通機関は使わない。
だって馬車とか人力車とかなんだよ?
あんな埃っぽくて時間がかかる物は観光客用。
時間の無駄。
ハヤトと待ち合わせの場所は電車で2時間くらい。
本当は一緒に行きたかったんだけどね。
現地に一緒に行くっていうのも普通の人間のデートっぽいでしょ?
それをハヤトに教えてあげたかったんだけど・・・・まぁ仕方がない。
現地につくまでの2時間色んな事を考えていた。
ハヤトの10代について。
非日常的な空間で過ごした思春期。
まともな生活を送れなかった青年を、どうやって普通の人間として生活出来る様更生していくか、って事を。
王はハヤトに対しては同情し、普通の人間として暮らせるようあれこれ考えたり、漆黒の翼の外し方について研究してみたけれど、結果は平行線。
答えは出なかったし、外す方法も見つからぬまま。
なら、せめて自由に外を出歩かせてあげたいって考えたみたいだけど、ハヤトの方は部屋で引きこもって絵を描くばかり。
誰かが手を差し伸べてあれこれ教えてあげないと何も進まない状態だけど、皆ハヤトに対しては腫れ物を触るような扱いで近づかないし。
普通の人間の生活を教えるって難しいー・・・・・。
目的地に到着。
電車を降りて、歩く。
暑いくらいの青空。
水の国は曇ってる事が多かったけど、こっちは曇る事の方が少ない。
こんな日差しの中、歩いてここまで来たハヤトは・・・・・日焼けとかしちゃってるのかな?
そんな事を考えながら、小屋へ続く階段を登る。
何してるんだろー?・・・・・あぁ、多分きっと絵描いてるんだろうな。
それ以外何かしてる所なんて見た事がないし。
小屋のドアを開く。
ムワっとした独特な臭いが鼻を突く。
ハヤトの姿はない。
テーブルの上にはいつもの死体の絵が置いてあった。
・・・・やっぱり描いていたか。
絵の隣にお弁当等が入ったバッグを置き、ハヤトの姿を探す。
室内に居ないのかな?
どこかにいっちゃった?
まさかすっぽかされた?
なんて考えつつ、室内を見渡す。
すると地面に何かが見えてきた。
干からびた人間の右手。
恐る恐る近づくと、一見誰だかわからない干からびた人間の遺体を発見した。
でもそれが私にはハヤトだと気づいた。
何故なら腕に漆黒の翼の腕輪があったから。
「ばーか。これから色んな楽しみが増えていくって時に、早まりやがって」
水分が失われパサパサになった髪の毛を優しく撫でてみる。
なんで実の兄と同じ死に方をしたのか、私にはわからない。
自分がなさすぎて、死に方すら誰かの真似をしなければならなかったのかな?
それとも、ハヤトはこの最期に憧れていた・・・・?
まさかね。
完 2016.0614(モバスペブックより転載
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます