ハヤト 5

日が昇っている時はひたすら歩き、日が暮れれば屋根がある場所で野宿する。

地図によれば、待ち合わせの場所までは歩いて2日もかからず到着するらしい。

2日くらい何も食べなくても十分だ。

フラついた時にだけ栄養剤を1錠だけ飲みこむ。

必要以上に栄養を摂取する必要ももうない。



土の国は不思議だ。

古臭い建物や埃っぽい道。

ボロボロの洋服を来た街人達が馬なんかで荷物を引っ張っているけれど、それは全て演じている姿。


他国の人間に対して、見せているだけで実際はこうじゃない。

国民全員が演じている。

時代遅れで古臭くダサい姿を。


それを面白がり写真に収めたりする他国の観光客の姿。

自分たちが騙されている事も気づかず、ダサい姿を指差し笑っている者もいる。

だけど土の国の人々はたとえバカにされようと笑われようと怒らない。

それは何故か?

ただその役を演じているだけで、実際は四カ国の中で一番文明が発達している事を知っているから。



自信があるという事は心に余裕があるという事か。

そしてどこの国でも他人をバカにしないと生きていけない人間も居るという事。



人間なんて滑稽だ。

そんな人間として生きれなかった僕自体はもっともっと滑稽だ。


カヤとの待ち合わせの小屋が見えてきた。

階段を登ればすぐ。

城を出て2度夜が来た。

今は3日目の朝か昼くらいか。

カヤが来るのは明日の昼。



・・・・間に合わせないと。



小屋に入ると、すぐに画用紙と鉛筆を取り出した。

旅の途中で描いていた絵を仕上げる。

右手を伸ばし干からびていた兄の遺体を描いた物。

日が落ちてしまうと見えなくなるから、それまでに必死に仕上げる。




僕は生き方を知らない。

ずっと誰かの言いなりになって生きてきた。

だから土の国へ連れてこられた時も、どう生きていいかわからず、ずっと兄の真似をして絵を描く事しか出来なかった。


これからどうやって人間らしく生きていけばいいのかわからないし、生きていく事に対しても疑問に思う事がある。

他の人間に比べて大量に食料を摂取し、異常な経費をかけて作られた栄養剤を飲み生き続ける事に対しても疑問に思う。


僕は生きている価値があるのだろうか?と。



・・・・なんとかギリギリ仕上げる事が出来た。

それをテーブルの上にそっと置く。



ポケットに手を突っ込むと栄養剤を取り出した。

2錠しか飲んでいない。

それを窓からバラバラに放り投げた。

ここまで来たらもう飲む必要もないし、万が一の事も考えて綺麗に捨てる事にした。



そして床に寝転がり、漆黒の翼を起動する。

これを起動するのは2年ぶり。

水の国が落とされたあの日以来だ。


静かに目を閉じる。

自分の意識が途切れるギリギリまで起動し続けるんだ。

そうすれば・・・・

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