家族 1
部屋に入り盗聴器やカメラがないのを確認すると、
「もう涼は限界なのかも知れないな」
早見さんは涼から受け取ったマリアの生首を袋の中にいれた。
「それ眞鍋さんに渡すんですか?」
「一応ね。渡すけど、これはもう2度と涼の手には渡らないだろう」
「どうして?」
それをアリスのようにホルマリン漬けか何かにして涼に渡せば、彼の指揮も上がるだろうに。
「マリアが持っていたアリスは、ただの3Dホログラムだから。
本物のアリスの生首じゃなかったんだよ」
・・・・土の国の文明の発達具合も凄かったけど、こっちも侮れないな。
「アリスの遺体はもうグチャグチャで補修不可の状態だったからね。
写真を元に作成したって訳さ。
それを知ってる人間からしてみたら、いつも大事そうに抱えてるマリアの事を見ると少し不憫に思ったかな」
へぇ~・・・・意外。
早見さんが僕たちを同情するなんて。
「眞鍋に渡した所で破棄されて終了。
涼の壊れ具合から見て、マリアのホログラムを作るかも微妙な所だ」
「・・・・・涼・・・・」
マリアを失い、脳の劣化が急速に進んだ気がする。
それはまるでご年配の人がパートナーを失い、一気に老け込み老化する現象とまるで同じに見えた。
「そろそろ眞鍋は涼を破棄するだろう。
所詮あいつらは使い捨ての駒に過ぎないのだから。
それに今この国は傾いている。
もう水の国の終焉へのカウントダウンは止まらないんだよ」
この国が終わる。
その前に僕はやりたい事が1つ残されていた。
この国が無くなる前に精算しなくてはならない事。
「涼が破棄されこの国が終わるまで、ハヤトさんはなんとか生き延びてください。
貴方はこの国の被害者であり、象徴なのです。
貴方がいなければ漆黒の翼の残虐さも、それにより人生を狂わされた人たちの事も土の国以外に伝える事が出来ない」
僕は被害者じゃないよ。
完全なる加害者。
「恐らくハヤトさんは保護の対象になるでしょう。
監視は付くかも知れませんが、ある程度時間が経てば自由な時間を持つ事が出来る。
それまでの辛抱です」
自由な時間なんていらないさ。
生きるのも死ぬのもどうでもいい。
ただ・・・・・。
「1つだけお願いがあります。
この国が滅ぶ前に・・・・・家に帰りたいんです」
「家・・・・?あぁ久しぶりにご家族に会ってゆっくりしたいのですね。
わかりました。手配します」
ゆっくりなんてしないさ。
さっさと用事を済ませるだけ。
僕に家族は居ないいんだ。
あの家での 僕 はもう死んでいるから。
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