落とし穴 1

「この子は使いたくなかったんだけど・・・・・」


カツカツカツ・・・・・・。


「仕方がないのよ。涼君も戦線離脱状態みたいだし、人手が足りないわ・・・」


カツカツカツ・・・・・・。



部屋の中には、ベッドとトイレしかない。

壁は鉄製、窓もない。

無機質な空間で、僕は首に首輪をされ、その首輪は鎖で壁につながれている。


人間扱いなんて、されていない。

会話なんてすでに、数ヶ月していないし、喋るとしたら

「僕が消えた空白の期間、何をしていたのか?」だけ。

まぁ、聞かれた所で、本当の事なんて話す気サラサラないんだけど。


喋る事もなければ、以前のように無差別に人を殺しすらしない。

そんな僕はただの役立たずなはずなのに、今でも細々と生きている。

1日に3度の点滴と、十分過ぎる食料を与えられながら。


何の役にも立てていないのだから、さっさと死刑にでもすればいいのに。

それすらせず、僕を生かす理由は何なのだろうか?

あの女の考える事は、ワカラナイ。




「でも大丈夫。弱みはすでに握ってあるから」


カツカツカツ・・・・・。


「彼にその事を話せば、また私達の手足となり、動いてくれるわ・・・・・」


カツカツカツ・・・・・。



あの女のテンションが高い喋り声と、ヒールで歩く音が聞こえる。

野暮な話は、僕が聞こえない所ですればいいのに、それすらしないという事は、こいつにとって僕は その程度の人間 に成り下がったからだろう。




足音は、目の前で止まった。

顔を上げて、見る気にもならない。

殺戮にまみれたあの気持ちが悪い顔を見るなんて、もうごめんだ。


僕はベッドに座り、床を見つめ続けた。

あの女の顔を見るくらいなら、冷たい無機質な床を見ている方が、断然心が癒される。



それなのに、


「聞いて!嬉しいニュースを持ってきたわ!

おめでとう!また任務に復帰出来るのよ!」


あの女にとって、僕が反抗的な態度を取った所で何とも思わないみたいで、いつものようにテンション高く喋り始める。



「ミカが死んで、マリアも改造中で、涼も使い物にならなくなっちゃったの。

他の正規品も全部撃破されちゃってね。

出番よ!ハヤト君!ここで貴方がいい所を見せちゃえば、英雄になれるわ!」



英雄。

そんな薄っぺらな言葉に引っかかる程、僕は単純ではないよ。


無言でベッドから立ち上がる。

ジャラっと僕の首輪に繋がっている鎖が、鳴り響いた。



「・・・ミカは何故亡くなったんですか?」


「ミカは殺されたの。

愚民に袋たたきにされたみたいよ。

あの子なら上手いこと、危険を回避してやってけると思ったんだけどね。

リサが指を切っちゃったから、身体より先に脳が劣化したみたい」



指を切ると、脳が先に劣化する・・・・・?



真鍋さんの側近らしき人間数人が、牢屋の中へと入ってきた。

鍵で鎖と首輪を離すと、次は両腕に拘束具を付け、鎖を引っ張る。

僕の答えに関係なく、無理やり連行するつもりだ。




「指の切断と脳の劣化には、どういう関係があるんですか?

身体の劣化って何ですか?」


「そんな事、イチイチ気にしなくていいの。

貴方はただ、モンスターを殺せばいいのよ」


いつものハイテンションで、ニッコリ笑いながらそう言うと、真鍋さんはカツカツと歩き始めた。

僕も強制的に、真鍋さんが歩いていく方向へと連れて行かれる。



何も教えてくれないってか。

それは前からだけど。


所詮、この女と女王にとって、僕達は噛ませ犬、捨て駒でしかないのだろう。

政治に関する事や、大事な事については、僕達に話すつもりは一切ない。


「英雄になれる」や「誇れる仕事」等、薄っぺらな台詞を振りまいては、

僕達を乗せ、上手いこと使おうとしているみたいだけど、

そんな子供騙しに引っかかる奴なんて、涼くらいしか居ないよ。



涼だって、バカだから引っかかるんじゃない。

あの子は誰に必要とされ、愛されたいから引っかかってるだけなんだ。

そんな純粋な心を、悪いとも思わず弄ぶ、あの女が許せない。



無言のまま、牢屋を出ると、すぐに何処かの一室へと通された。

そこには机と椅子しかない。

真鍋は空いている椅子に座ると、僕を向かいにある椅子へと強制的に座らせた。



「はぁ・・・・・、ハヤトには子供だましは通用しないわね。

いいわ、ハッキリ言う。

今から、涼の所へ行き、討伐を再開しなさい」


ハイテンションな喋り声と裏腹に、真鍋の顔から笑顔は消えていた。

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