食い違い 16

「外見と・・・・中身・・・・」


やっと声が出たと思ったら、言えた言葉はコレ。

上手く文章にならない。



「えっと、意味が伝わりませんでしたか。

シンプルに説明したつもりなんですけど。


マリアさんが離脱した時、酷い錯乱状態だったのは覚えているでしょうか?」




・・・・覚えてる。

あの時のマリアは、いつもと違い酷く動揺していた。




「マリアさんの場合、幼少期に行われた虐待のせいで、

普通の人の脳より、萎縮していました。

萎縮状態で、漆黒の翼を埋め込み、討伐に明け暮れる日々。

すでに彼女の脳は限界だったのです」



虐待、萎縮。

それはマリアが悪いのか?




「なので、正規品の漆黒の翼を埋め込む際に、脳を移植しました。

以前の記憶も全て消去し、外見は同じだけど、中身は全く別の物に作り上げたのです」



移植。

作り上げる。

本当のマリアの意識がないうちに、勝手に消された。

俺が愛したあの子が居なくなった。




「じゃあ・・・・、もうマリアには会えないんですね・・・・・」


頭の中が空っぽになった。

もう会えない。

大好きだったあの子の中には、別の人間が住み着いている。

もう会えないあの子に変わって、別の輩が好き勝手動き回るなんて・・・。


汚らわしい。




「会えますよ。これからは以前より元気いっぱいなマリアさんと一緒に居られるんです。

良かったですね。

明日から、任務も楽になりますよ」



何もわかっちゃいない。

俺が好きなのは、元気いっぱいなマリアじゃなくて、以前の物静かな方だ。


「それで、正規品に取り替える話なのですが、涼さんはいつ手術しますか?

今なら、マリアさんが戻ってきてますから、この機会に・・・・」




次は俺の番。

俺が消される番・・・・・?



そんなの嫌だ!

こんな形で消されるなんて!

まだ俺は英雄になっていない!

幸せも栄光も手に入れてないんだ!




「結構です。しばらくは真鍋さんが作ってくれた特効薬で乗り切ります」



はっきり断った。

まだ俺は、消えたくない!

自分の事は自分で守らなくちゃならないんだ!



「そうですか。わかりました。

ではそのように、真鍋さんに伝えておきますので・・・・」



ペコっと頭を下げると、係員は部屋から出て行く。


俺は俺を守りきった。




「・・はぁ・・・・・ははっ・・・・・・」



乾いた笑い声が部屋に響く。


今の気持ちは、嬉しい?悲しい?寂しい?わからない。



真鍋さんは味方だと思っていたのに。

裏切らないって、信じてたのに。



失望感。



どうしてマリアの事を消したの?

一度も幸せを噛み締める事が出来ないまま、生臭い血にまみれ消えていったマリア。

そんなの可哀相過ぎる。



喪失感。




俺は、そうはなりたくない。

マリアのようには、ならないんだ。

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