食い違い 10

「そうですよね・・・、涼さん一人に負担がかかりすぎましたよね・・・」


係員がブツブツ何かを呟く。



「元気なんだ!今は少し疲れているだけで・・・・」


それに対して、俺は必死に足掻く。

身体に異変が起こってるという現実を、受け止めるのが怖いから。

自分は元気だと訴え続ける。



「そろそろガタが来てもいい頃だ・・・・」


「手足のしびれは消えた!息苦しさだって治まったんだよ!」


それに嘘はない。

だって現に、今は手足も痺れていなければ、息苦しくだって無い。


すると、



「あぁ、それは今の身体の異変とは、何も関係ありませんよ。

手足が痺れたのは、過呼吸のせいです。

驚いて呼吸が乱れたのでしょう。

意識が途絶えたのも、その影響です」


え?過呼吸?



「そういえば、涼さんって過呼吸持ちだったんですよね。

資料に書いてありました。

漆黒の翼が埋め込まれるキッカケになったのも、通学途中に過呼吸になり病院に運ばれたからだとか」


やめろよ。

思い出させるなよ。

忌々しい記憶を。



「でもわからないものですよねぇ。

偶然過呼吸で倒れたお陰で、人生がここまで変わるなんて。

苛められっ子が大逆転ではありませんか」


フフフ・・・と気持ち悪い声を上げながら、笑う係員。



やめろ。

やめてくれ。

俺はもう、あの時には戻りたくないんだ。


何の力も無い、イジメられる事を恐れる日々には帰りたくない。



だから怖かった。

この力が無くなる事を。

漆黒の翼が無くなれば、俺はまたイジメられる。

いや、イジメられる所か、今まで殺してきた奴らの家族や友人、身近な人達に命を狙われるだろう。


嫌だよ。

死にたくない。

やっと何かに怯えながら、生きる必要が無くなったっていうのに。

また、怯えなくちゃならないなんて嫌なんだ。



「それが今では、不特定多数の人間を殺せるなんて・・・・。

おや、違いました。

法律違反をするモンスターを排除してるんでした。


何の取り得のないイジメられっ子がここまで急成長ととげたんです。

身体に異変が起こっても、おかしくはないでしょう」


「こんな事が起こるなんて、真鍋さんからは何も聞いてません」


「まぁそうでしょうね。貴方方はまだ試作の段階だったから」


全身にゾクっと寒気が走る。



「試作?それはマリアの事じゃないんですか。

試作品がマリアで、それが成功したから俺達にも漆黒の翼が埋め込まれたと、ハヤトから聞きました」



思い出せ。

初めてハヤトに会った日。

あの入院施設で話した会話の内容を。



「あぁ、マリアも試作でしたね。

試作の中の試作。

一言で言うなら、実験台。

実験が成功したから、貴方やハヤトの身体で試作した。

それが現実です」



実験。

試作。


なんだよ、それ。


生きてる人間の身体で、そんな事やっていい訳がないだろうが。



「貴方もハヤトも試作品だった。

だから、手術する際に家族へ多大なお金が国から手渡された。

正規品の人達には、実際に任務に入るまでお金は支給されないんですよ。

そう考えると、試作品の方がラッキーですよね。

金銭的な面で」



金か。

なんでも金で解決されるのか。



「でもやっぱり試作品は試作品でしかない。

正規品に比べ、試作品の方が肉体にかかる負担は大きいんです。

超人的な能力を使う代わりに、身体の劣化は急激に早まる。

今見た目は年相応ですが、筋肉や内臓、骨はおじいちゃん並に衰えたのでしょう」



おじいちゃん並に衰えた?

そうなるとどうなるんだよ。



「それは身体だけではない、漆黒の翼を埋め込まれた脳まで劣化は起こっているはずです」



脳まで。

やめてくれよ・・・・怖いよ・・・・。



「劣化を止める術はありません。

一度衰えた物は元には戻らない。

ですが、脳に埋め込まれた試作品の漆黒の翼を正規品と取り替えれば、劣化速度は止まるでしょう」



・・・劣化が止まる?



「実は前の街から離脱したマリアさんも、これを機会に試作品から正規品に取り替える手術を行ったんです。

どうします?マリアさんが戻ってきたら、涼さんも取り替える手術を行いますか?」

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