食い違い 3

俺達は一般の人間より、優れた技術を持つ人間。

漆黒の翼がある俺達がただの人間を殺すなんて、赤子の手を捻る位に簡単な事。



「・・・・さん」


しかし、ただの人間が数十人、数百人になるとどうなる?

ただの人間の中に、漆黒の翼を持つ俺が一人ポツンと立たされたら・・・?



「・・・・うさん」



序盤は俺の方が有利だろう。

ただの人間が武器を構えている間に、剣を一振りすればいい。

そうすれば、5~6人くらいならいっきに斬る事が出来る。

しかし、どんな武器を使ったとしても、どこかでかならず一瞬隙は出来る。

俺が剣を振り下ろした後に起る隙に、万が一攻撃されたらどうする?

頭でも殴られて、そこで意識を失えば、俺はそのまま・・・・・・。



「涼さん!」



「えっ?」



俺の名前を呼ぶ声を聞き、現実に戻る。

冷や汗をかきながら、苦笑いを浮かべているスーツを着たおじさんと目が合う。

えっと、俺、何してるんだっけ?



「え・・っとあの・・・・」


辺りをキョロキョロ見渡す。


見た事がない部屋。

長い机に、皮製のソファ。

目の前にはコーヒー。

手には資料。



「・・・続きを話してもよろしいでしょうか?」


「あぁ・・」



そうだ。

モンスターを討伐しに、この学校に来たんだった。

で、今は打ち合わせの途中。



「すいません、続けて下さい」


大切な打ち合わせ中に、考え事をするなんて、何してるんだろう俺。

間違えて無実の人間を殺す訳にはいかないんだ。

マキのような犠牲者は、もう2度と出す訳にはいかない。


そう頭では理解出来ているのに、話は右から左へと流れていく。

頭の中を占拠している物は、ミカの死とこれからの自分について。


俺もいつか隙を付かれて、ただの人間にあっさり殺されてしまうのだろうか?

そんなの嫌だ!

絶対に死にたくない!

あんなクズ達に、殺されるなんてウンザリだ!



「あの・・・・」


「えっ?」


再び、校長の声で現実に呼び戻される。



「どうかされましたか?」


汗を拭いながら、ご機嫌を必死に伺っているような態度。

以前なら、そんな校長の姿を見て、あざ笑っていられたというのに、

ミカの死を目の当たりにした今では、俺の隙を狙い、隠し持った包丁で刺そうとしてるんじゃないか?とさえ、思えてくる。



「いや、大丈夫です。体調が悪っ・・・・」


途中で言葉を詰らせた。

ここで 体調が悪い と言ってしまい、その隙を突いて狙われたどうしよう?!

そんな疑いが生まれ、



「なんでもないんです。本当に、なにも・・・・ミーティングを続けましょう」


急いで、話を戻した。



隙を見せたらいけないんだ!

一瞬でも隙を見せたら、俺は・・・・殺される。



今までは、俺が人間を殺す立場だったというのに、今朝から突然立場が逆転した。

押えようがない不安感と絶望感が頭の中を駆け巡る。


この感じは、初めてではなく、以前も体験した事があった。

どんどん思い出してくる。


それは、まだ漆黒の翼が埋め込まれる前。

毎日、死にたくない!と必死に生にしがみつきながら、学校へ通っていた。

あの頃の俺と同じ。


何故?どうして?

今更、またこの嫌な感覚を味あわなくてはならない?

あの時、十分苦しんだじゃないか!

地獄は味わった。


俺は変わったんだ。

漆黒の翼が体に埋め込まれたあの日から。

もう、あんな生活とはサヨナラ出来ると、そう思ったのにー・・・・・・。



コーヒーカップを持つ手が震える。

隙を見せたらいけない!

そう思い、両手で掴んだ時にはすでの遅く、震える手を校長に見られてしまう。



「ははっ、コーヒーが熱くて・・・・」


適当に言い訳をすると、



「あぁ、すいません」


校長はニッコリ笑った。


もしかして、今のが苦し紛れに出た言い訳だとバレ、それで笑われたのだろうか?

すでに校長には、俺が隙だらけである事がお見通しとか?



コロサレル。



頭の中に、そればかりが浮かぶ。

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