食い違い 2



「・・・死んだ?冗談でしょう・・・・」


信じられなくて、思わず笑ってしまう。

あのミカが死んだ?

他人なんて平気で踏みつけ、自分だけでも助かろうと足掻くあいつが?



「冗談ではありませんよ。

本当にミカさんは死にました。

それがですねぇ、討伐の合間に、勝手に抜け出したんですよ。

一人で居る所を、大勢の人間に襲われまして。

あっという間に袋の鼠。

それに気づいて助けようとした時にはもう・・・・」



仲間が一人、亡くなっているというのに、係員はニヤリと笑っている。



「勝手な行動を取るから、こうなるんでよ。

元々ミカさんは自分勝手な行動が目に付く人でした。

女王様の所有物でありながら、自分の意思を持ちフラフラ動き回る。

あの子は、自分の立場を理解していなかった。

意識に欠けていたのです。


各地でも、仲間達が国民に襲われ、倒されるケースは続出してます。

漆黒の翼を埋め込まれているからといって、油断してはいけない。

自分は特別な人間だと、うぬぼれるからスキを突かれる。


くれぐれも油断せず、気を引き締めて下さいね。

まぁ、涼さんは大丈夫だと思いますけど・・・」



そう言うと、高笑いをし始めた。

確かにミカは、お世辞にも いい奴 とは言えなかった。

自分勝手で嫌な奴で、大嫌いだ!

そう思ってたけど、それでもずっと一緒に暮らしてきた。

毎日顔を合わせてきたから、情はある。



「あの、最後にミカの遺体に手を合わせる事は可能ですか?

その・・・別にミカの事が好きとか、そういうんじゃないんです。

ただ、最後のお別れをしたくて・・・、仲間だったから・・・・・」



遺体に手を合わせる。

たったそれだけの事くらい、簡単にさせてもらえると思った。

しかし、



「それは無理です。

遺体はすでに火葬され、骨は本部へ送られました。

もうミカさんを見る事は出来ないんです」


そういうと、突然真顔になると、まだ朝食の途中だというのに、トレーを持ち立ち上がった。




「あの!まだ待って下さい!」


立ち去ろうとする係員を呼び止める。



「最後にミカに会った時、俺が告白させたとか自殺とかなんか言ってたけど、

あれって、なんだったんですか?」


あの時のミカはどう見てもおかしかった。

何かに取り付かれたかのように、必死に俺に対して何かを訴えかけていた。


ミカに関して、謎が多い。

本当は全てを知りたい所だけど、それは出来ないんだと思う。

この討伐が始まったきっかけの記者会見にも、ミカは関与していたにも関わらず、

俺達3人はただ残され、モニターを見るように指示されただけだったし。

女王様が招待してくれた、晩餐会でもそうだ。

ミカに対してだけ、扱いは違った。


女王様の所有物。

あいつは、人間としては扱われてなかった。

そして、それを本人も凄く悔しがっていた。


別にミカの仇を討ちたい訳じゃない。

ただせめて、最後に会ったあの時の、あの言葉の意味だけでも知りたい。



係員はスッと目線をそらすと、



「あぁ、誰かと間違えたんじゃないんですか?

気にする事はないですよ。

もうミカさんは居ないんですから、忘れましょう」


出入り口へと、歩いていった。



誰かと間違えた?

気にする事はない?

忘れる?


そんなに簡単な言葉で、片付けられる程、ミカの存在は軽い物だったのか?



そういえば、ハヤトの事もマリアの事も、一切係員の口から話したりしない。

なら、俺もミカと同じように、国民達に殺されたら、


「涼は死んだから、忘れましょう」


たったそれだけの言葉で片付けられてしまうのだろうか?

俺達の存在価値は、そんなに 薄 い 物 ?




「そんなの嫌だ!!!!俺は英雄になるって決まってる人間なんだ!!!

そんなに簡単に忘れられてしまうなんて、絶対に嫌だ!!!!」


自分の気持ちを抑えきれず、椅子から立ち上がると、叫び声を上げた。

周りの人達が、怪訝な顔でこちらを見ている。

お前等から見たら、俺は異質な存在なんだよな。

そうだ、俺はもう普通の人間になんて、戻れない。


法律や国家とはと関係なく、何も知らずのうのうと生きている人間が羨ましい。

俺も、もっと気楽に生きたいよ。

俺が死んだら、一人でもいいから泣いてくれる人が居て欲しいよ。



でも、俺には家族は居ない。

自分で殺してしまった。

戻る場所がない。


そこが嫌でも、必死にしがみつかなくてはいけないんだ。

居場所が何処にもないから。

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