食い違い 1
いつものようにレストランで朝食を取る。
一人分の朝食を食べながら、フロントで受け取った真鍋さんから送られてくる直々の報告書に目を通すのが俺の日課だ。
そうしていると、いつものように係員がトレーを持ち、こちらへやってくる。
「おはようございます。涼さん」
笑みを浮かべながら。
何も言わず、俺の目の前の席に座る。
そして、
「おはようございます」
まずは朝の挨拶から。
でも、本当はそんな気分ではなかった。
挨拶なんかよりも、聞きたい事があって、それはミカの事。
ミカは実家に戻った、と聞かされていた。
にも関わらず、真夜中に突然ホテルへ現れ、全身血だらけの状態で意味のわからない言葉を俺に投げつけてきた、
あの奇行の事が知りたい。
元々あいつの事を、まともな人間とは思っていない。
いつも責任を誰かに押し付け、他人を見下す事しかしないから、
きっとその延長で何かを俺のせいにしたかったんだろうって思っていた。
取り乱すミカを宥め、部屋に戻そうとした時、係員が取った行動は、
背後から押さえつけるといった物ではなく、有無を言わず、突然ミカの首筋にスタンガンを当てると、高圧電流を流した。
一瞬で意識を失い、倒れこむミカを担ぐと、何も言わずにエレベーターの方へと歩いていく。
「あの!ミカ・・・大丈夫ですか?」
一連の行為が、あまりに不可解で思わず俺は係員を呼び止めると、
「えぇ、大丈夫ですよ。私が部屋に戻って手当てしておきますから。
涼さんは今の事は気にせず、ゆっくり部屋に戻り休んで下さい」
それだけ言うと、スタスタ歩いていった。
そう言われた所で、例えミカの事が大嫌いでも気にせずにはいられない。
そのまま夜が開けるまでロビーに居座り続け、係員とミカが出てくるのを待ったが、一行に出てくる気配はなく、
一旦朝食を取る為にレストランへと向かった。
中に入り、いつものように朝食を食べていると、係員がいつもの笑みを浮かべ登場。
挨拶もせず、俺は
「あの!ミカは大丈夫ですか?」
昨晩の一件が気になり、問いかけてみると、
「あぁ、ミカさんなら先ほど病院へ運びましたので、ご安心下さい。
えっと・・・、涼さんは今日は○○小学校と・・・・」
たった一言で受け流される。
先ほど病院に運んだ?
俺がレストランへ向かった、あのわずかな時間で送ったというのか?
「あの、ミカを一人で病院に向かわせたんですか?」
その言葉が信じられなかった俺は、食いついた。
すると、
「そうですよ。あの程度の怪我なら、点滴でもすればすぐに良くなるでしょう。
そのまま討伐に行ってもらうので、今日はミカさんとは会えないかも知れません」
点滴?輸血の間違いじゃないのか?
あの時だって、返り血も相当浴びていたが、ミカ自身にも怪我を負っていた。
不思議に思いながらも、係員が嘘をつくはずがないという安心感から、それ以上は突っ込むのを止めると軽く打ち合わせへ。
それが終わると、俺は任務先へと向かった。
病院へ行ったのなら安心だ。
ん?でも俺達の身体は、普通の病院で治療出来るんだったっけ?
また謎が飛びえてて来る。
しかし、今晩にでも、詳しく話を聞こう。
そんな軽いノリで流した。
それもこれも、係員との信頼関係からなす技だ。
討伐から戻り、一旦シャワーを浴び、部屋に戻った後は、ずっとロビーに居た。
ミカか係員。
どちらかが戻るのを待っていたんだ。
しかし、真夜中を過ぎても、2人は戻ってこなかった。
いつもなら、日が落ちた頃に戻ってくるはずなのに。
係員は打ち合わせに飛んでいたとしても、ミカは送迎の車があるから強制的にここに戻されるはず。
もしかして、病み上がりで討伐に行ったから、傷がも開いたとか?
そんな事があり、今朝になりようやく係員と会えた俺は、挨拶なんてどうでもよくて、
一刻も早くミカの事が知りたかったんだ。
「ミカに会えてないんですけど、大丈夫ですか?」
怪我の具合を聞いたつもりだったんだけど、係員の口から出た言葉は、
「あぁ、ミカさんなら昨日死にました」
予想外の言葉だった。
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