死ぬと生きる 16



「・・・聞いたって、具体的に何を?」


アタシも釣られて、真顔になる。

係員は何を喋ったのだろう?

もしかして、学校で行った無差別的な惨劇を、あいつは見ていた?

それを涼にチクったのだろうか?

緊張感が走る。



「任務に対するお前の態度だよ。頑張ってるみたいだね」


上から目線な喋り方が、気に入らない。

頑張ってるみたい ?

何よ、それ。

アタシはいつも頑張ってるじゃない!

頑張って、クラスのレベルを上げ、サナエと友達になってあげたのに。

それなのに、アンタ達は手のひらを返して、アタシの事をハブった・・・。



「えぇ・・・うん、頑張ってるわよ!

言われたことは、真面目にこなしてる・・・・。

違法な事はしてないから!・・・アタシは誰も傷つけてない!」


「なんだよ、それ。

お前ってさ、出会った頃から最低な女だったよな。

いつも自分の立場を守る為に、誰かを見下して、俺とマリアを傷つけ続けた。

その腐った性格は、きっと死ぬまで直らないんだろうな」


サナエが自殺したのも、全ての原因は亮。

アタシのせいじゃない!

それなのに、あの根暗男は全ての責任を、アタシに押し付けた。

やっぱりこいつは卑劣で最低な男だ。



「・・はは・・・。でも、アタシが居た事で雰囲気は変わったでしょ?

頑張って、この根暗な雰囲・・いや、楽しく盛り上げたじゃない!」


「まぁ、お前が居た事で救われた事も、少しだけある。

でもまぁ、居ない方が平和でよかったかも」



アタシの今までの功績を、少ししか認めてくれないの?

誰のお陰で、キモくて根暗なイメージから、最上級のクラスまで底上げしたと思ってんのよ!

何も判っていない!

むしろ、イジメの主犯のアンタが居ない方が、平和に決まってるじゃない!



「で、係員と話し合った結果、今日の任務が終わったら、実家に戻っていいよ」


「え?」


予想外の言葉に、思わず気の抜けた返事をしてしまう。


なんでそうなるの?

それまでの会話が、否定的だったから余計に驚いてしまった。

無意識にマヌケな顔をしたのだろう。

涼は噴出すと、



「フッ!何だよ、その顔は。

聞いたんだよ、係員に。

お前が凄く頑張って、討伐してるって。

そんな話を聞いたら、少しくらいダメでクズな人間だろうと、褒美をあげたくなる。

いいよ、家に帰って。久しぶりに家族の顔を見たいだろう?


この街での任務が終われば、お前には罰が下るって話だし。

またここに戻ってくるにも、いつになるか?わからないからな。

ゆっくりしてこいよ。

その代わり、明日の任務に遅刻したら許さない!以上」


そう言うと、涼はトレーを持ち、席を立った。



「・・・・何よ、それ」


涼が居なくなった後、一番最初にアタシの口から出た言葉はそれだった。



・・・・なんだ、それだけなんだ。

冷や冷やして損した。



バレてない。

涼もただの抜けたキモ男。

緊張するだけ、無駄だった。


「ふふ・・・・・あはははっ!」


緊張が解けた瞬間。

笑いが止まらなくなった。

一人テーブルで、大きな声を出し笑う。

それを見ていた周りの人間は、怪訝そうな顔でこちらを見ていたけど、そんなの気にしない。

だって、いつもそうだから。

右手の指がなくなった時から、他人の見る目はいつもソレだったから。



・・・・本当は、そんな目で見られたくない。

普通の人間になりたいのに・・・!


もう、そんな願いは届かない。



普通の人間には戻れない事は、なんとなく自分でも理解出来ていた。

しかし、完全に戻れなくても、近づく事は出来る。


実家へ帰り、家族と会う。

当たり前の事だけど、普通の人間に戻れないアタシにしてみたら、その行為そのものが普通の人間に近づいたみたいで嬉しかった。

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