ミカ 12

体育館へ一歩入ると、


「ぎゃあああああ!!!」


まだ何もしていないというのに、悲鳴が上がる。

え?なんで?カギ鉄鋼は背中に隠してるのに。

あ、そっか。

さっき、人を殺したから、返り血を浴びたんだった。

なら早く、ヤっちゃわなくちゃね。


体育館の重たい扉を閉めると、隅っこへ逃げた生徒達の所へと走る。

さぁ!早く死んでちょうだい!そしてアタシに、その血を恵んで!






・・・早く、戻らないと。

いや、その前にこの血を洗い流さないとね。

ペタペタと、服や顔についた返り血を垂れ流しながら、トイレへと歩いていく。


何が起こったのか?覚えてない。

ただ目の前で泣き叫び、逃げ回る子供達をー・・・・・?

いや、思い出せないのなら、そのまま忘れよう。

そんな事より、これだけの数を殺せば、それなりの時間まで、痛みが来るのを遅らせる事が出来るわね。


トイレの狭い洗面台で、制服と顔、手をジャバジャバと洗う。

化粧水も乳液も何もないから、本当は洗いたくなかったんだけど、そんな事は言ってられない。

細かい部分は、ホテルに戻ってから落とすとして、ある程度の血を洗い流すと、客室へと戻った。

なるべく早く戻ったつもりだったけれど、扉を開いた先にはすでに涼が戻っており、



「何処に行ってたんだよ!ここで待ってろって、言ったじゃないか!」


アタシを見た途端、怒鳴り散らす。

何よ!嘘つき男!アンタが、嘘つくから、わざわざ人を狩りに行ったんじゃない!

・・・・なんて言えるはずもなく、



「あ~、ごめんごめん!トイレに行ってたの!それより、そろそろホテルへ戻らない?夕食の時間になるわ!」


体育館の騒ぎが、涼の耳に届く前に学校を出るべく、帰るのを急かす。

まぁ明日になれば、不自然な遺体の数の多さに、アタシが隠れて大量虐殺した事なんて、バレるのはわかっているけど。

でも、それは、バレたらバレた!って奴で、とりあえず今さえ乗り切ればそれでいい。



すると、涼も自分が喋りすぎたのが原因で帰るのが遅くなった事を気にしているのか?


「そうだな。じゃあ失礼します」


校長へ頭を下げると、玄関へと歩いていく。

自分の非を素直に認める事は偉いけど、それはそれでキモかったりする。


そんな涼の行動に、校長はハッとした顔をすると、


「玄関までお送りします」


小走りに後をつけてきた。

そんな校長を横目で確認すると、涼は歩く速度を緩める。



何で、ゆっくり歩いてんの?早くパッパと歩いてよ!

そんな涼の行動に、アタシは居ても立っても居られず、自分の太ももを軽く叩く。


ようやく車の前まで辿り着くと、いつもならさっさと車に乗る涼が、校長の方を振り返り、


「ゆっくり話が出来て楽しかったです。

・・・そうだ。その、俺も苗字が北条って言うんです」


また討伐とは関係のない話をし始める。

ここの校長が、アンタの苗字になんて興味ある訳ないじゃない!

思わず、そんな突っ込みが口から出そうになったが、強引にその言葉を飲み込む。



「北条・・・・・いや、名前なんていいや!あはは・・・。

あの・・・家族を大切にして下さい」


いつも変で気持ち悪いけど、今の涼はいつもに増して気持ち悪かった。

何が言いたいのか?全く意味不明だし。

今日初めて会った人間に、「家族を大切に」とか不自然すぎる。

とうとう、頭がイカれちゃったのかしら?



涼を追い越し、車へ乗り込むアタシ。

一応、無言のアピールで急かしてるつもり。

涼もアタシの後を追い、車に乗り込んだ時、



「苗字が一緒なんですね。私にも貴方と同じくらいの子供が居るんですよ。

もう小さい頃に別れたっきり会ってはいませんが。

そういえば、名前は何て言うんですか?最後に教えて下さい」


もうこっちに気を使う必要なんてないのに。

でも、そこがこの人の良い所なのかしら?

校長がまた、討伐とは関係ないどうでもいい話題を振る。

すると、涼は数秒黙った後、



「俺の名前は・・・・・・北条ハヤトです。

さようなら、北条さん」


気持ち悪い笑顔を浮かべ、強制的に扉を閉めた。

北条ハヤト?え?何言っちゃってんの?


涼の咄嗟の嘘に思わず、


「は?何言ってんの?アンタの名前は北条涼じゃない!

何勝手にハヤトの名前使ってんのよ!」


突っ込みを入れると、それが聞こえていたのだろう。

校長は ハッ とした顔をすると、こちらに手を伸ばす。


しかし、さっきまで仲良く喋っていたはずの涼は急に下を俯くと、



「早く、車を出して下さい!」


運転手に指示を出し、唇を噛む。

外で校長が何かを必死に訴えていたけれど、車は涼の命令通り、発進する。

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